離島や僻地で利用されるイメージが強かった「遠隔医療」。最近は、リアルタイムに多くの患者情報を得られる「オンライン診療」として、都市部でも広まりつつある。特殊な痙攣を画面から読み取り、看取りの現場でも威力を発揮。「いつでも対応してもらえる安心感があった」という家族の声も寄せられている。
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今年5月にAERA本誌で実施した介護にまつわるアンケートでは、「オンライン診療を介護する家族に受けさせたい」と回答した人が53人(46%)。54歳の女性は、「慢性肺気腫だった母は病院に連れていくだけで体力を消耗。連れていくこちらも体力を消耗した。オンラインで適切な診断、投薬がされるなら、選択したかった」。
一方で、「オンライン診療より先に、地域医療のシステムを円滑にして、誰もがどの医師にかかっても、安心した受診ができるようにしてほしい」(62、女性)との意見もあった。
新しいテクノロジーには、期待と不安とが入り交じる。
福岡市在住の女性(56)の場合、スマホの操作にも慣れておらず、「当初は恐る恐る」オンライン診療に挑戦したという。女性は両親の「ダブル介護」と仕事の両立に悩んでいた。
両親は、長崎県佐世保市の高台の家で暮らしていたが、ともに認知症が進行。女性は長年遠距離介護で乗り切っていたが、老々・認認介護では持たないと判断。2年前から福岡市の自宅に両親を引き取った。
父は、アルツハイマー型認知症に加えて、悪性リンパ腫を発症。総合病院の血液内科の外来へ。両親の認知症は、たろうクリニック(福岡市)の物忘れ外来へ。通院の負担は少なくなかった。たろうクリニック院長の内田直樹医師(39)に相談すると、「オンライン診療の実証事業が始まる。通院とオンライン診療を組み合わせて来院間隔を空けますか?」と提案された。
折しもオンライン診療の導入を検討し始めた昨年7月、父親の悪性リンパ腫が悪化。余命は1~2カ月と伝えられた。当時、父は86歳と高齢で、母と相談の上、抗がん剤治療は受けないと決めた。女性は内田医師に「父を自宅で看取りたい」と伝えた。そこで、7月末から内田医師が定期的に訪問診療を行いながら、その合間をオンライン診療で補う方針が固まった。
電話と違い映像で様子がわかるのがオンライン診療のメリット。訪問診療時に手のひら大だった悪性リンパ腫の発疹が徐々に大きくなり、ただれている様子が画面上から伝わった。2回目のオンライン診療の際、内田医師は軟膏の種類を変えた。
看取りが近くなると、状態が刻々と変化する。夜中に痙攣が始まった父親の様子を女性が電話で伝えると、夜間の当直医が代表的な抗痙攣薬を処方。翌日、内田医師が様子を見るため、急遽オンライン診療を行ったところ、ピクッ、ピクッと微妙に間隔の空く、少し特殊な痙攣であることがわかった。内田医師は看取りが近いことを女性に伝えた。実際、父はその当日に息を引き取った。訪問診療が始まってから1カ月後の8月末のことだった。