作中に、セミの幼虫やヤモリなどの生き物、草木が多く登場する。ロケ地は神奈川・葉山の古民家。沖田監督とカメラマンは撮影期間中、その隣の古民家に寝泊まりした。

「毎朝6時に気持ちよく目覚めていました。撮影隊が来るまでの2時間、ロケ地の庭をカメラマンと散歩して虫などを撮りました。1カ月もすると、だんだんと庭の変化に気づきだして。守一さんと同じように、あの蔓ちょっと伸びたね、と感じるようになり、楽しくなってきて。守一さんの気持ちが少しわかるな、と思うようになりました」

◎「モリのいる場所」
全国で公開中。モリ役の山崎努さんは13年ぶりの主演。妻・秀子役は樹木希林さん。

■もう1本 おすすめDVD

 沖田修一監督の作品には、食事場面が多く登場する。長編第3作「キツツキと雨」では、登場人物たちが心を通わせていく中に「食」がある。

 とある山間部の村に住む木こりの岸(役所広司)は、無職の息子(高良健吾)と二人暮らし。その関係は良好ではない。ある日、山にゾンビ映画の撮影部隊がやってきた。若手監督・田辺(小栗旬)の消極的な言動に最初は苛立ちを覚える岸だが、会話を重ねるうちに徐々に打ち解けていく。物語の後半、二人とも甘い物を解禁し、おいしそうにひとつの「あんみつ」を食べ合う。

 そして終盤には、岸親子が朝ご飯を無言で食べるシーンがある。ここでは息子が父親と同じ方法で「のり」を食べる。そこに流れるのは穏やかな空気と平和な日常。

 沖田監督の食の原体験はどこにあるのか聞いてみた。

「父親が大家族の長男で、子どもの頃から家に人がよく来ていて、正月には母親が料理をふるまっていました」

 これからは食事シーンにも注目してみてはいかが。

◎「キツツキと雨」
発売元・販売元:株式会社KADOKAWA
価格4700円+税/DVD発売中

(編集部・小野ヒデコ)

AERA 2018年5月28日号

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