近年は40歳が野手の一つの区切りになってきている大リーグで、44歳という年齢は「障害」になっている。しかも、年俸は格安の75万ドル(約8千万円)。一般的なベテラン選手のケースであれば戦力外通告が妥当で、最大限敬意が示されて自由契約が考えられる。

 イチローは、オリックスから移籍し、大リーグ記録の年間最多262安打など数々の金字塔を打ち立ててきたいわば「生え抜きのスター」だ。大リーグ通算3089安打(9日現在)で、米野球殿堂入りも確実視される。扱い次第では、地元ファンの反感を買い、球団の評判を落としかねなかった。

 だが、現役の道が閉ざされたわけではない。契約上、来季の大リーグ復帰は可能。「会長付特別補佐」就任会見では、集まった報道陣に「僕は野球の研究者でいたい。アスリートとしてこの先どうなっていくのかを見てみたい」などとも語った。

 実現しそうな気配もある。マリナーズは来季、3月20、21日に東京ドームでアスレチックスと開幕2試合を戦う。同カードが開催された2012年には、故障者対応などから、球団はベンチ入りの25人プラス5人の30選手で来日している。ディポトGMもラジオ番組で、「来季、特に東京でイチローのユニホーム姿を見られる可能性は高い。彼は球史に残る象徴的な選手で、(日米)二つの国でレジェンド。逃すには大きすぎる」と起用にも前向きだ。

 肩書が付いてから2日後の5日、前日の練習風景とは一転、外野で黙々と球拾いをするイチローの姿があった。打撃練習では、何度も右翼席にきれいな放物線を描いた。「遠いけれど、目標をもっていられることは大きなこと」。再び試合に出る日に向けて、イチローは今日も変わらず準備に励んでいる。(朝日新聞記者・遠田寛生)

AERA 2018年5月21日号