そんな極道の奥義が詰まったものを、“天然の善意”で子供に歌わせている大人たち。音楽で分からなければ衣服で例えてみよう。もし幼稚園の指定した水着がTバックタイプの物だったりしたらどうだろうか。それをあなたの知らないところで決められ、いたいけな娘が着させられていると想像してみてほしい。

「君は君のままで」とか「自分らしく」とか「そのままの君が好きだから」とか、聞き心地が良いフレーズは人をうっとりとさせるかもしれない。が、それは、“商業音楽”の現場で、一番利便性が高いフレーズでもあるのだ。

 オンリーワン思想とは、実は、一人で生きていかなくてはいけない冷ややかな時代の揺り戻しだ。血縁や地縁に縛られず、自分で名前を自由に決めてよい時代の裏側はとても厳しい。「極甘な自己肯定」を後押ししてくれる時代の暗部、それがキラキラ化現象なのかもしれない。何年後かの評価を待つことにしたい。

 最後に。私の子供の名前が気になるところだろう。

「伊音」

 これで「オト」と読む。

AERA 2018年5月14日号

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