批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。
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財務省の福田淳一・前事務次官のセクハラ疑惑が世間を賑わせている。辞職は決まったが、麻生財務大臣のセクハラ容認と取れる発言もあり、野党は攻勢を強めている。相次ぐ不祥事で倒閣運動がふたたび盛り上がりを見せているが、忘れてはならないことが三つある。
ひとつは公文書改竄問題の決着である。財務省による公文書改竄は民主主義の基礎を揺るがすものであり、全容解明と再発防止が求められる。
ところが3月末の佐川宣寿・前国税庁長官の国会喚問が不発に終わって以降、国民の関心は早くも移ってしまっているように見える。4月12 日には大阪地検が立件見送りとの報道もあったが、大して関心を呼ばなかった。セクハラ報道がそこにとどめを刺した。このまま大臣を辞任させ溜飲を下げても、改竄問題がうやむやになり、財務省の体質が変わらないのでは国民生活は脅かされたままだ。議論を原点に戻す必要がある。
もうひとつはジャーナリズムの体質である。次官のセクハラは許されるものではないが、今回の事件では被害者自身が記者であり告発できる立場にもかかわらず、所属機関の対応に問題があった。結果、他社週刊誌での匿名報道になり、告発のインパクトは大きく削がれた。背景にあるのは取材側と被取材側の共犯関係である。報道のありかたを考え直すべきではないか。
最後に、最大の問題は野党の圧倒的な弱さである。野党の国会攻勢に対して、与党幹部は解散をちらつかせている。立憲民主党の辻元清美国対委員長は困るのは与党だと返したが、実際にはいま解散しても与党議席は微減にとどまると言われている。ここまで不祥事が相次いでも、野党に票は流れない。希望と民進がつくる新党の党名決定など話題にもなっていない。
去る4月23日、産経新聞とFNNの合同世論調査で、10代・20代では7割以上が財務大臣の続投を求めているとの結果が出た。ネットには憤る中高年リベラルの意見が溢れたが、この状況をつくったのは大人たちである。野党は離合集散をやめて、せめて彼らが30代、40代になったときには支持を集めることができるよう、長期的視野で立て直しを図るべきである。
※AERA 2018年5月14日号