後藤繁雄さん(63)/京都造形芸術大学教授、G/P galleryディレクター、編集者
後藤繁雄さん(63)/京都造形芸術大学教授、G/P galleryディレクター、編集者

「得意なことも得意でないことも必ずやっていかなくては」。AERAの表紙を撮影するにあたり、そう本誌に語っていた。写真家・蜷川実花が撮った時代の顔たちは、何を映したのか。京都造形芸術大学教授で、蜷川さんの写真展プロデュースや写真集の編集も手がける後藤繁雄さんが読み解く。

【美しすぎる羽生結弦 蜷川実花撮影でAERA表紙を飾る】

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 蜷川実花さんの写真を知ったのは、1990年代後半。長島有里枝さんやHIROMIXさんなど、蜷川さんを含めた若い女性写真家たちが撮影した、「ごくふつうの日常の写真」が注目されるようになった頃のことでした。

 写真とは、「眼差し」でできあがるものです。そして、長らく写真の主流にあったのは、「男性の眼差し」でした。男性的な「眼差し」からは、「真実や人生を理解していなければ、写真は成立しない」と捉えられてきました。若い女性写真家たちが登場した当時も、一部には「女の子のお遊びで、写真ではない」とみる向きもあったほど、それは根深く、強固なものでした。

 しかし、女性の「眼差し」は、共感のもの、時には「共犯者」「共演者」のものと言っていい。これまで男性が作りあげてきた写真とは別の、新しい可能性を開くものです。2001年には、蜷川さんと長島さん、HIROMIXさん3人が同時に木村伊兵衛写真賞を受賞しました。

 いまや、蜷川さんは、多くの人に知られ、海外でも活躍し、日本で最も影響力を持つ写真家の一人になりつつあります。

 では、彼女の写真を特徴づけるもの、彼女の写真たらしめるものは何か──。多くの人は、独特の配色で敷き詰められた花々に代表される、ヴィヴィッドな色彩や世界観を想起するかもしれません。けれど、私はやはりそれは、彼女独自の「眼差し」であると考えています。彼女の写真には、常にある種の傷つきやすさに対する共感があります。

 世間から注目されるということは、「消費される」ということでもあります。監督作である映画「へルタースケルター」(岡崎京子原作)の、全身整形をして美しく生まれ変わり、時代の寵児になった主人公と同様、蜷川さん自身が消費される若者の側にいました。

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