レシピはスマホで検索する時代。料理動画サービスはネットに咲き乱れる。「作って食べるもの」だった料理は、エンタメとして楽しむものにもなっている。
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仕事終わりの帰宅途中、スマートフォンで「料理動画」を見るのが記者の日課だ。テンポよく料理が出来上がっていく様子を眺めていると、一日使った脳が休まる気がする。手の込んだ料理も、簡略化した手順で見ると全体像が把握でき、「自分にもできるかも」と思えるのがいい。「お気に入り登録」をしたり、SNSでシェアしたり、もちろん実際に作ってみたことも。
海外が発信地の料理動画が日本に入ってきたのは2016年ごろだ。作業を真上から撮影する手法が新鮮だった。尺は1分前後で、あっという間に料理が完成する。2年ほど前から人気に火がつき始め、最近はスマホのアプリを中心にさまざまな動画サービスが展開されている。
昨年12月にはレシピサイト大手のクックパッドが動画事業に本格的に参入、全国にユーザー向け動画投稿スタジオを設置することを発表して話題になった。
岩田林平社長の最終目標は「料理の作り手を増やすこと」。同社のスタッフだけではなく、クックパッドに自作のレシピを投稿している一般ユーザーも動画作成に携わるのが特徴だ。
17年12月に「クックパッドスタジオ」の1号店が東京・代官山にオープンした。午前10時から午後10時までの予約制。専用スタッフが無料でサポートしてくれるので、初心者でも撮影・編集ができる。食材だけ持ち込めば、調理器具や基本的な調味料も借りられる。
東京都在住の主婦で、クックパッドユーザーの「こと味」さん(31)は、自身のレシピ「サーモンとクリームチーズの生春巻き」の動画作りに初挑戦。結婚指輪は外し、袖も画面に入らないようにたくし上げる。
「あくまで料理がメインになるので服や顔が入らないように注意してくださいね」と話すのはクックパッドスタジオ代官山の店長、土田幸恵さんだ。動画作成のポイントは、撮影前に絵コンテを作っておくことだという。
「目安はおよそ10コマ。最終的に1分にまとめるため、シンプルに撮影するのがコツです」(土田さん)
東京都在住の会社員、油川(あぶらかわ)佐予さん(34)も自身のレシピ「まるごとオレオの豆腐ドーナツ」を使って初の動画作りに臨んだ。動画の最後にコーヒーを二つ添え、“二人で食べるおやつ”というイメージを演出した。作業を終えた油川さんは、「楽しかったです。スタジオは有料でも使いたいと思いました」。
料理が得意なわけではない記者でもできるかも。というわけで、チャレンジ。選んだレシピは、失敗が少なそうな親子丼だ。
撮影と編集にはクックパッドが独自に開発したアプリを使い、タブレットで操作する。調理台の上の送風機は、湯気が上がった際に、カメラが曇らないためのものだった。目の前にあるモニター画面の両端に白いテープが貼られている。これは?
「インスタグラムの画面規格です」とスタッフの女性が教えてくれた。なるほど、アップした動画をインスタでシェアすることも想定されているわけだ。
何げなく見ている料理動画も、実際に作成してみると細かな工夫点に気づかされる。
「撮影時に、鍋を画面の下のほうへ引いて退場させたら、次のコマでは下から上に登場させたほうがスムーズに見えますよ」
と前出の土田さんにアドバイスをもらった。短い再生時間の中には、そんな視覚的な効果にも気が配られている。(編集部・小野ヒデコ)
※AERA 2018年4月23日号より抜粋