漫画『ピアノの森』が今春、テレビアニメになる。劇中の楽曲演奏を担うのは、国内外の若手ピアニストたちだ。声の出演ならぬ「音の出演」を果たす反田恭平さんと高木竜馬さん2人に心境を聞くと、各々の音楽観にまで話は及んで……。
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反田恭平(以下、反田):めちゃくちゃ楽しかった。「音の出演」ができて。中学生の時から原作の大ファンで、作中の人物に自分を重ねて読んできた。
高木竜馬(以下、高木):僕もうれしかった。でもまさか「彼」の役だとは……。
反田:えっ、何で?
高木:だって、自分とはまるで異なるタイプなんだもん。
──漫画『ピアノの森』(一色まこと作)は、森に捨てられたピアノを玩具代わりにして育った主人公・一ノ瀬海(いちのせカイ)が、交通事故を契機に演奏家生命を絶たれたピアニスト阿字野壮介(あじのそうすけ)と出会い、才能を開花、ライバル雨宮修平(あまみやしゅうへい)と「ショパン・コンクール」に挑む物語だ。2015年まで「モーニング」(講談社)で連載された。
高木:僕は主人公・カイのライバル「雨宮さん」の「ピアノの役」。今回読み直して強く印象に残ったのは、雨宮さんの性格。人間って憧れのあまり嫉妬に狂う時がある。普通は他人に言わないけど、雨宮さんは全部言っちゃう。反田さんは誰に一番近い?
反田:今回、僕が演奏を担当する「阿字野」。彼のような挫折体験はないけど、僕にも弾けない時があった。大事な人を失ったり、腱鞘炎にかかったり。不甲斐なさ、これでいいのかという葛藤は理解できなくもない。
──「音の出演」とは、どんな心境なのでしょうか。演奏を「役作り」する感じですか?
反田:僕が阿字野になり切って弾くか、阿字野という人物をくみ取った僕として弾くのか、僕が普段のままで弾くのか。ピアニストの個性って聴く人に伝わる。「この音色はホロヴィッツ」「グールド」って。でも今回、僕はそこに特に不安はなく、「阿字野を演じ切ろう」と。ちょっと俳優みたいな気分。
高木:最初の録音ではコンクール序盤で演奏する練習曲を弾きました。ただ、雨宮さんの演奏、じつはコンクールの中で変わっていくんですよね。
反田:物語でとても重要な局面。
高木:もともと雨宮さんは完璧主義者。クールで絶対ミスタッチしない。ところが途中で劇的に変わる。異なる演奏を演じ分けなければならなかった。