3月10日、南山大学で講演するマイク・ベイム氏。「道義的責任」「道徳心」に基づく行動が重要だと、米国内外で強調し続けている(撮影/伊ケ崎忍)
3月10日、南山大学で講演するマイク・ベイム氏。「道義的責任」「道徳心」に基づく行動が重要だと、米国内外で強調し続けている(撮影/伊ケ崎忍)
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 ベトナム戦争の教訓を忘れている──。そう怒るのはベトナム帰還兵の米国人、マイク・ベイム氏(70)。罪の意識から、自ら集めた寄付金を使い、ベトナムで診療所建設や学校支援、村民への少額無担保融資などの支援活動を行っている。「トランプ氏は、恐怖心と無知の二つをうまく利用することに天才的。そうやって大統領になった。最悪の事態だが、起こるべくして起きたとも言える」と話す彼は、母国の分断社会の背景には、過去から学ばない「無知」があると訴えている。

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 支援活動を始めたのが92年、戦場からの帰還後20年以上が過ぎて初めて正面から向き合った「ベトナム戦争」だった。世間ではすでに忘れられた戦争となっていた。支援活動の協力はなかなか得られなかった。

 今日に至るまでの多くの米国人とのやりとりを経て、ベイム氏は確信したことがある。

「リベラル派の人たちですら言葉だけで行動が伴わない。ベトナム戦争での米国の罪を語っても、みなが耳をふさぐ。悪い過去には背を向ける。米国がやっていることは全て正しいと、常に上から目線の偽善だ。道徳心や道義的責任で物事を考える米国人は多くなかった」

 その帰結がトランプ大統領の誕生であることに、ベイム氏はさほど驚いていない。

「世界のリーダーだと言っている国が、実際は自国のことしか考えていないから、ベトナムの後もアフガニスタンやイラクなどで同じ過ちを繰り返す。米国は何も学んでいない。これまで長い間、米国に内在してきたことが、究極の形となって現れたのが、トランプ大統領だ」

「傲慢(ごうまん)で、道徳心に欠け、哲学は何もなく、全ては自己中心的なトランプ政権を変えたいのならば、対抗すべきリベラル派が足元を見つめ直し、言葉だけでなく、行動をしないといけない。変化には代償が伴うことをリベラル派は理解するべきだ」

 そう語るベイム氏の支援活動の現地パートナーであるファン・バン・ドー氏(65)も、米国は戦争から多くを学ばなかったと考えている。ドー氏は、ベトナム戦争中に父を反米の南ベトナム解放民族戦線(ベトコン)に、兄を親米のサイゴン政府軍に殺された。戦争にほんろうされた人生にあっても、「貧しい人たちのために」という良心を見失わず、ベイム氏の支援活動の中核を担う存在となっている。

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