経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。
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「何かが腐っているのだ、このデンマークでは」。シェークスピア劇、ご存じ「ハムレット」の中で、将校の一人、マーセラスが発する言葉だ。一国の政治や行政を巡って怪しげな展開が浮上した時、イギリス人なら、必ず、このセリフを思い出す。
このセリフを今の日本に応用するとすれば、少々の修正が必要だ。すなわち、「すべてが腐っているのだ、このニッポンでは」としなければならない。厚生労働省はいい加減な数字づくりをする。財務省は記録文書を改竄する。文部科学省は公立学校の授業に妙な介入の手を伸ばそうとする。そして、それら一連の腐った行政行為の背後に、我々は腐った政治の影を感じざるを得ない。
ただ、思えば「すべてが腐っている」という認識は乱暴すぎるかもしれない。国民は腐っていない。この異様な事態に対して、連日、国会周辺でも霞が関でも声を上げている。決して、諦めたりふて腐れたりしてはいない。しっかり力強く怒りを表明している。そこが頼もしい。
さらには、国会内において存外に野党が頼もしく見える。それなりに共闘がうまくいっている雰囲気がある。昨年秋の総選挙をきっかけに野党は分裂し、多党化した。こんなにバラけていたのでは闘いようがない。そのように言われていた。だが、実態はどうか。
各野党間の駆け引きは色々あるのだろう。だが、見える形で現れている姿は、結構、悪くない。なかなかいい呼吸で、チームプレーを発揮している感がある。世の中、実はこういうものだ。一つの集団の中にいると、とかく、先頭争いとか点数稼ぎの行動が前面に出がちだ。内輪同士ほど、思惑は錯綜しやすい。
ところが所属が別々になると、突然、お互いを支えたり補完したりすることができるようになる。逆に、別々だった時には仲良くできていた者同士が、同じ集団の一員になると、急にいがみ合い始めたりする。夫婦だった二人が、離婚後のほうが円満に付き合えるようになる。
多党化した野党には、大いに巧みに共闘してほしい。そうなれば、今こそ、彼らは本当の「国難突破」で国民のお役に立つことができる。
※AERA 2018年4月2日号