●「政局とは距離を置け」
「田中角栄さんと組んで裏で佐藤降ろしの画策を始めようとした竹下さんは、私にこう言いました。『ここから先は政局の世界なんだ。もう君、帰っていいよ』と。それで私は巻き込まれずに済んだ。『政局とは距離を置け』と大蔵省の先輩にも言われたし、師である後藤田正晴元副総理にも『役人は公正中立でなくてはならない。そのためには政局に乗っかったらおしまいなんだ』と叩き込まれました。だから当然後輩にも伝えてきたし、役人にとっては身に染み付いた常識なんです」
政局への関与という禁忌にからめ捕られ、公文書改竄にまで組織を導いた「主犯」は誰なのか。ひとり佐川氏という「能吏」に負わせて済む話ではあるまい。元大蔵官僚(97年入省)で法政大学教授の小黒一正氏は、佐川氏の理財局長時代の国会答弁のニュアンスに注目する。
「佐川さんの答弁がどんどん強い言い切り口調になっていった。その過程に何があったのか不思議です。局長クラスなら『現時点で把握する限りにおいては』『提出している以外の書類はないものと認識しております』という具合に留保条件をつけるのが常です。総理の答弁書と異なり、局長の答弁書は基本的に内部のみでもんでセットしますから。あの答弁を見た官僚経験者はみな『大丈夫なのかな』と感じたはずです」
実はこの佐川氏や安倍首相の国会答弁の原稿に関わったとみられる理財局国有財産業務課の係長が1月29日に自殺とみられる不審死を遂げている。3月7日に自殺した近畿財務局の職員と合わせ、2人が尊い命を落とした背景は、徹底して究明されなければならない。
●「忖度」の水準を超えた
今回の書き換えについて小黒氏は「国家財政や税制を担う誇り高い財務官僚を含め、通常の行政官が『忖度』で対応できる水準を明らかに超えている。何らかの政治的な圧力があった可能性もある」として、続けた。
「書き換えの前後の文書を見比べると削除箇所も多いし、物理的に何人もの行政官で詰めないとできないでしょう。決裁規則上は近畿財務局の中で閉じている文書が多いですが、本省に相談したことは明らかにしているので、書き換えは本省でも詰め、本省が指定して、近畿財務局でやったのかもしれない。いずれにしても数字のミスや事実関係の訂正でもなく、財務省が決裁文書を書き換えたことは今でも信じられません」