「自分たちの技術に自信と誇りを持っていますが、現状は問題が山積です。今治のように染色工場が集まっている場所は貴重なのですが、後継者不足や今後ますます厳しくなるであろう環境への配慮などは喫緊の課題です。いま手を打たないと未来がない。最初はそうした課題解決のために集まって議論していたんですが、暗い話題しか出てこない(笑)。一度、未来に向けて希望が持てるようなことをやってみよう──と、考えました」(同)

 そこで山本さんを中心に、染色組合で勉強会をスタート。2年間かけて市、県、国へと働きかけ、実現したのが「今治カラーショー」なのだ。

 今回の取り組みについて、「危機感を染色組合で共有できたことが大きい」と、城西大学経営学部教授の辻智佐子さん。

「現在、日本の染色加工業は生き残れるか、消えてなくなるかの分水嶺にあると思います。制度的にも政策的にも、何か手を打たないと、取り返しのつかない事態になるのではないか、という危機感を抱いています」

 昨年も後継者不足を理由に、他地域で染色工場が廃業している。若い世代の考えを知りたくて、山本さんの長女・麻梨南さんに話を聞いてみた。

「高校2年で志望大学を決める際に、父の会社を継ごうと思いました。大学で何を学ぶかは職業に直結していると考えたときに、祖父の代から続いている家業をつぶしてしまうのはもったいないのではないか、と思ったからです」

 麻梨南さんは大学3年生。都内の大学(政治経済学部)に通い、ゼミで繊維産地の生き残りについて研究している。

「生産業に若い人が集まらないのは、物が出来上がるまでの過程が見えないことが一因ではないでしょうか。都会には物があふれていますが、作った人や工程まではわかりません。身の回りにある小さな物も完成するまでのストーリーがあって、苦労して作られたものだと知れば、そこにある技術を残したいと思うかもしれません」(麻梨南さん)

 そう語る麻梨南さん自身、大学進学で東京に来てから、故郷である今治を思う気持ちが強くなった。

 一方、父である山本さんは、都市部で染色工業を続けることの限界を感じている。

「いずれは染色会社が1カ所に集まって、工業団地をつくるのがいいのではないか、と考えるようになりました。そのためには資金も必要だし、行政にも動いてもらわなくてはいけない。染色組合としての発信は、これからも必要だと思っています」

(ライター・矢内裕子)

AERA 2018年3月19日号

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