「1000色のレシピ」(デザイン/エマニュエル・ムホー、撮影・志摩大輔)
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糸を釜に入れ、不純物や油分を取り除いたうえで色素を分解除去し、漂白するのが「晒し」。この工程が仕上がりに影響する(撮影/Kanako Hamada)
染色組合の理事長、山本敏明さん。娘の麻梨南さんは「会社を継ごうと思ったのは、生き生きと仕事をしている父のようになりたかったから」(撮影/Kanako Hamada)

 日本を代表するブランドになった「今治タオル」。その品質とデザインを支えているのが、1千色を染め分ける染色工業の技術だ。東京と今治で開催されたショーが地場産業の可能性を見せる。

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東京・青山にあるスパイラルガーデンの高い天井から、さまざまな色に染め分けられた帆布のパーツが下がっている。離れて見ると雨のようにも、揺れる色が波のようにも見える。

 色のシャワーのような作品は、建築家・デザイナーのエマニュエル・ムホーさんによるインスタレーション「1000色のレシピ」だ。

 1千色に染め分けられたキャンバス地が「1、2、3……」といった数字と、「秒」「分」「℃」など染色にとってキーワードとなる文字に切り抜かれている。

 作品は「今治カラーショー(IMABARI Color Show)」のために制作されたもの。1千色という膨大な色数を染めたのは、愛媛県繊維染色工業組合(染色組合)に参加する八つの染色会社だ。世界中で支持されている「今治タオル」に欠かせないのが、染色工場の存在だ。

 今治にある染色組合の理事長を務めるのが、西染工の代表・山本敏明さんだ。「染まるものなら全て染めてみせる」が会社のモットーという山本さんは、染色の難しさについてこう語る。

「私たちは天然素材であるコットンを扱っています。自然の綿は毎回状態が違う。染色の工程だけに限っても、1回で思い通りの色に染まるのは全体の2、3割にすぎません。大抵は染料の配合や時間を変えながら、どうやったら注文どおりの色になるのか調整する。効率はよくないですね」

 今治で生産されるタオルは、まず生糸(なまいと)を染めるためにふんわりと巻き替える(ソフト巻き)。綿花の種類や産地によって、微妙に異なる生成り色をした生糸を「晒し」てから染める。さらに糊づけ、乾燥、仕上げ巻きをしてから、ようやくタオル会社に送られる。

「織りあがったタオル生地は再び染色会社に戻ってきます。糸には糊がついていますから、糊抜き・脱水・乾燥をし、成形してから切り込みを入れる。最後に一枚ずつ、従業員の手で検品しながらそろえられ、ようやく出荷できるのです」(山本さん)

 染色──という言葉から想像する以上の作業工程をこなすのが、染色会社なのだ。

 こうした複雑な過程を伝えるべく、スパイラルガーデンでおこなわれたショーでは、各工程の説明が写真やビデオとともに展示されていた。

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