万が一、有事にでもなれば弾道ミサイル攻撃の標的になる可能性も取りざたされる原発は日本海沿いに集中する。地域はどう考えているのか。記者が現場を歩いた。
全国の原発の4分の1が集中する福井県南部の嶺南地方。若狭湾に突き出た内浦半島に位置する高浜町音海(おとみ)地区の防波堤からは、関西電力高浜原発の蒸気の白煙をほぼ正面に見据えることができた。
「あれは稼働のサインです」
原発再稼働に反対する「ふるさとを守る高浜・おおいの会」メンバーの東山幸弘さん(71)はそう言って、今度は周囲の釣り客に目を向けた。原発の温排水の影響で魚が集まる内浦湾内は格好の釣り場だという。
高浜町出身の東山さんは、京都大学原子炉実験所(大阪府熊取町)に職員として勤務。定年退職後の2009年にUターンした。北朝鮮の「ミサイルリスク」に懸念を深める東山さんは、原発は再稼働させることでリスクが格段に高まる、と説く。
「飛んできたら終わり」
「停止中であれば、核燃料制御の鉄則である『止める』『冷やす』『封じ込める』のうち、『止める』『冷やす』の作業は不要です。しかし稼働中だと、付属施設に1発でも命中すれば制御不能に陥ります」
高浜原発1~4号機は、1974年に1号機から順次運転を始めた。11年の東京電力福島第一原発事故後、3、4号機は16年に再稼働したが、大津地裁の運転差し止めの仮処分決定などで停止。その後、大阪高裁の仮処分取り消し決定を受け、17年5~6月にかけて運転を再開した。
原発関連の仕事に携わる人が多い町内で、東山さんの活動に表立って同調する人はほとんどいない。しかし、高浜原発に最も近い「共存圏」ともいえる音海地区で異変も生じている。
運転開始から40年を迎えた1、2号機について、原子力規制委員会が16年6月、運転を最長20年間延期することを認めた。これを受け関西電力は、19年10月以降の再稼働を目指し、改修工事を急ピッチで進めている。こうした中、音海地区の自治会が16年12月、原発の運転延長に反対する意見書を採択し、関西電力などに提出したのだ。地区には「運転延長反対」の看板も掲げられるようになった。