音海漁港近くで電動カートに乗った女性(76)に声をかけた。音海地区で生まれ、太平洋戦争中は米軍のB29の空襲も経験したという。女性は北朝鮮のミサイル攻撃について「ものすごい恐怖感がある」と打ち明けた。

「ミサイルはいつ飛んで来るか分からんし、飛んで来たら音海は終わりやね。戦争のときに原発が動いとったら、原爆を抱えているのと同じと違いますか」

 北朝鮮は日本を射程に収める「ノドン」を200~300基保有する。周囲を見渡し、女性はあきれた様子でこう言った。

「国はミサイルが降ってきたら、『頑丈な建物や地下に避難する』とか行動例を示してますけど、この辺でどこへ逃げろって言うんですか」

 高浜町は原発事故に備え、町内10カ所に遮蔽や空気浄化機能を強化した放射線防護施設を設置。音海地区では廃校になった旧音海小中学校を改修し、ヘリポートも整備した。

 前出の東山さんは言う。

「高浜町に隣接するおおい町にある大飯原発も年度内に再稼働予定です。災害でもミサイルでもテロでも、この辺りは同時多発的にトラブルが発生するリスクがあります」

 地元行政も住民の危機意識を共有している。

 北朝鮮の相次ぐミサイル発射などを受け、福井県の西川一誠知事は昨年9月、小野寺五典防衛相にミサイル攻撃に対する原発防御などを緊急要請した。高浜町を含む福井県内の原発立地自治体の4市町長も昨年11月、防衛省に同様の要請を行った。

 自衛隊はどう対応するのか。防衛省は「イージス艦を展開させるとともに、拠点防護に使用するため全国に分散配置されているPAC3(地対空誘導弾パトリオット)を状況に応じて(原発)周辺にも機動的に移動、展開させる」としている。

 これに対し、防衛政策に詳しい東京新聞の半田滋論説兼編集委員は「日本のミサイル防衛網は破れ傘だ」と指摘する。

「自衛隊が保有するPAC3は34基。2基1セットで展開するため配備できるのは最大17カ所、しかも2基でカバーできるのは直径50キロの範囲にすぎません。米軍が06年に嘉手納基地(沖縄県嘉手納町など)にPAC3を24基配備しましたが、沖縄の米軍基地を守るためだけにこれだけ配備したのと比べると、気休めにもならないのが分かると思います。ミサイルの雨が降ってきて、広げた傘には骨組みしかなかった、という状況になるのは目に見えています」

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