チャ氏は、米国人が23万人いる韓国や9万人いる日本に北朝鮮がミサイルで反撃するかもしれず、「大統領は米国の中規模都市なみの人口を危険にさらすことになる」と懸念も表明。チャ氏のこうした姿勢から、トランプ政権は駐韓大使への起用を撤回したと同紙は伝える。
確かに今世紀に入り北朝鮮の核・ミサイル開発は格段に進み、米国も脅威と呼ぶようになった。だが北朝鮮は自衛手段と主張しており、米国の先制攻撃は国際法上は許されない。それでも米国が踏み切った場合、世界的に不人気なトランプ氏への批判と結びつけば、イラク戦争時と同様に国際世論は割れる。
日本でも議論は必至だ。イラク戦争では政府は米国を支持し、世論は「日米同盟か国際協調か」で割れたが、朝鮮半島有事はさらに重い選択を迫る。北朝鮮の反撃で交戦状態に入れば、米軍の出撃拠点となる米軍基地を全土に抱える日本に、「どう関わるのか」という問題が突きつけられるからだ。「米国を支援し、日本に攻撃が及ぶ前に金正恩政権をつぶすべきだ」「いや、トランプが始めた戦争に日本が巻き込まれる。これ以上危うくすべきでない」とメディアやネットで侃々諤々(かんかんがくがく)になるかもしれない。
その時、日本の政治は決断を迫られる。日本に攻撃が及ばないよう米軍をどこまで支援するか。それとの兼ね合いで、政府は現状を「○○事態」と認定して対処の方針を閣議決定し、原則として国会の事前承認を得ないといけないのだ。
かつては日本への攻撃に自衛隊が反撃する「武力攻撃事態」と、周辺で起き日本の平和と安全に重要な影響を与える「周辺事態」で米軍を支援する2本立てだった。さらに15年成立の安全保障法制で“新たな選択肢”ができた。憲法解釈を変え集団的自衛権の行使を認めた上で、ある国への攻撃を日本への攻撃とみなす「存立危機事態」と、周辺事態で認められていた米軍支援の地理的制限をなくし、弾薬提供など内容も広げた「重要影響事態」だ。
米朝が交戦に入っても、日本が攻撃表明を受けたり被弾したりしていないなら、その状況の認定は重要影響事態となる可能性が高い。前身の周辺事態がまさに朝鮮半島有事を想定し、日米で備えてきたものだからだ。
そんな状況で在日米軍基地から米軍の航空機や艦船が続々と出動する際には、まず日米安保条約との関係で両政府の事前協議の対象となるだろう。ところがこれを日本政府は拒みにくい。米軍基地を抱えた沖縄の返還に日米が合意した69年、当時の佐藤栄作首相が朝鮮半島有事の際の事前協議に関し「前向きかつ速やかに態度を決定する」と表明しているからだ。