はい、はい、なるほどデスネ。あなたの言ってることはわかる。「で、日本語で答えていいですか?」 そう、私たちの問題は「英会話の瞬発力」だ。なんとか効率よく鍛えられないものか。達人に聞いた。
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習う側の「プロ」は、どんなコツをつかんでいるのだろう。
下城民夫さん(57)は英会話学習歴5年。日本バーベキュー協会会長で、年に5~8回は渡米する国際派ビジネスマンだ。テキサスやアトランタで開催されるバーベキュー世界大会に出場。バーベキュー用品や食材関連企業とのコラボレーションや業務提携も少なくない。
「バーベキューは単なる料理ではない。パーティー文化です」と強調する下城さん。パーティーなのだから、会話は不可欠だ。
バーベキューは米国を象徴する食文化だ。その大会に日本人チームが乗り込んでいくと、興味津々で質問攻めにあう。訪問先は地方が多く、“極東の小国”をよく知らない人も多い。
「問題は挨拶から先なんです。彼らの『最近どう?』は社交辞令じゃない。ほんとに『どう』なのか、ガチで聞いてくるんです。いい加減な応対をしたらその先の会話で困ることになるし、本気で向き合わないとコミュニケーションをあきらめられてしまう。それじゃ人間関係が広がらない。いつも必死です」
下城さんが米国人同士の会話を観察して気づいたのは、日本語に敬語とくだけた言い回しがあるように「英語にも繊細な表現がいくつもあり、TPOで使い分けている」ことだという。
「協会関係者で日系2世の友人に個人教授をお願いしています。専門用語もわかるし話しやすいけれど、決まった言い回しで満足しないように『今のを初対面の人に言う場合は?』『ガールフレンドのパパだったら?』『偉い人が相手なら?』など、言い換えを教えてもらっています」
最近、ネイティブ講師によるオンライン英会話も始めたという下城さん。彼らには日本語が通じない。その違いを、英会話学習に生かしたいと考えている。
「日本語がわからない相手には、いい加減な英語では勘弁してもらえない厳しさがある。その一方でこちらの要望が誤解されたまま進んでしまうリスクもあります。ですから反復練習にはネイティブ講師、表現のバリエーションを広げたいときは相談しやすいバイリンガルの先生にと習い分けています」
ところで、なぜ、それほどまでに英語を話したいのでしょう。下城さんは即答した。
「せっかく知り合った人と、深い話がしたい。パーティーや講演でジョークが飛び出したら、同じタイミングで笑いたいじゃないですか」
シンプルな動機ほど、長続きの原動力になるのだと、気づかされたのでした。(ライター・浅野裕見子)
※AERA 2018年3月5日号より抜粋