事前審査では、「(仮想通貨は)法定通貨ではないこと」「価格変動に伴う損失リスクがあること」といった告知など、利用者保護の態勢が整備されているか、利用者が預託した金銭・仮想通貨の分別管理が徹底されているか、システムリスク管理が整備されているかなど、詳細なチェックが行われた。
しかし、この登録には抜け穴があった。法施行前から事業展開していた業者は、金融庁に登録を申請していれば仮想通貨交換業者とみなす、「みなし規定」が存在していたのだ。事件を起こしたコインチェックも、この「みなし業者」の一社だった。
「『みなし』は、あくまで経過措置ですが、申請業者に問題があるなどして審査が長引けば、法的には永久に『みなし』でいることも可能です」
金融庁のある幹部は悔しさを隠さない。実は、金融庁は事前審査の過程で、今回不正流出したNEMを問題視していたとの指摘もある。
「コインチェックの審査が続いているのは、同社がモネロ、ジーキャッシュ、ダッシュという3種類の匿名コインを扱っていることに金融庁がマネーロンダリング(資金洗浄)の疑念を示していたことが大きい。それに加えてNEMも取り扱いから外すよう求めていたようです」(金融庁関係者)
金融庁の懸念は、図らずも事件となって露呈したわけだ。
昨年9月には消費者庁、警察庁と連名で、仮想通貨の利用者に対してトラブルを未然に回避できるように注意喚起を行った。
「仮想通貨の口座に不正アクセスされ、10分ほどのうちに預けていた280万円のほぼ全額が盗まれた」など、今回再び起きてしまったような過去の実例が紹介されている。
金融庁はフィンテックを新たな産業として育成するスタンスにあったが、事件を契機に規制強化の声は強まろう。(経済ジャーナリスト・森岡英樹)
※AERA 2018年2月12日号