中島さんが解説する。

「保守思想のエッセンスは、人間は間違いやすい存在で、その人間が構成する社会は永遠に不完全。だからこそ長い年月をかけて残ってきた伝統や慣習に言語化されえない英知が含まれていて、それを継承しながら世の中を徐々に変化させる改革でなくてはならないというものです。ですが、日本のほとんどの保守派と言われる人たちはその思想を共有していないことに不満を持っていました」

 具体的には日米安保を基軸とする親米保守派を批判し、時として論争を巻き起こした。

「アメリカは近代的な理性によってユートピアをつくることができると考えている点で、ソ連と同じ左翼国家と捉えていました。そのアメリカニズムを日本が喜び勇んで取り入れたことに憤りがあったのです。西部先生のこうした考えは、左派として活躍した学生運動の頃から一貫しているのだと思います」

●寅さんじゃないけど

 芦澤さんも「戦後、あまりにも経済に流されてしまった日本はもっとしっかりしないといけないと、文化と自立の大切さを教えてもらった」と回顧する。

『保守の真髄』のなかで西部さんは、「死に方は生き方の総仕上げ」とし、世界最長寿国の日本人が死に方を真剣に考えない姿勢を嘆いた。

 村本さんとの本誌対談では、西部さんは最後にこんな言葉を残している。

「ストレスがあって白髪が増えてハゲになっても女房や子どもには何も知らせず、さも楽しげに老いたオオカミとして暮らしているように見せないといけない。寅さんじゃないけど、男はつらいんだよ」

 いかに生きるかを社会に問いかけて生を終えた思想家。その鋭い言葉をもう少し聞きたかった。(ジャーナリスト・桐島瞬)

AERA 2018年2月5日号