経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。
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1月22日、今年もまた、通常国会の開幕に対応して総理大臣の施政方針演説が行われた。安倍晋三氏にとって第2次政権発足後、これが6回目の施政方針演説だ。昨年のものと比べて、五つの点が目を引く。
第1に、構成が変わった。第2に「国創り」が降格した。第3に、財政健全化が復活した。第4に、地方創生が昇格した。第5に、芯が出てきた。
まず構成からいこう。昨年のものは、外交・安全保障が筆頭に出てきた。従来は最後に配置していたものを冒頭に出していた。だが今回は、外交・安全保障がいつもの最後尾に戻った。「国創り」は昨年の演説の中心テーマだ。「世界の真ん中で輝く国創り」が主旋律で、演説の全ての大項目に「○○の国創り」のネーミングが付いていた。今回も「国創り」が4回ほど出てはくる。だが昨年に比べれば、出方はかなり控え目だ。ちなみに、昨年の演説における外交・安全保障の冒頭デビュー、そして「国創り」の連発ぶりについて、筆者は年間を通じて徹底的にケチをつけ続けた。もしかして、それに怯んだか?
財政健全化への言及は、昨年の演説からかき消えていた。この点についても、筆者はとことん悪口を浴びせ続けてきた。やっぱり、それが堪えたか?
地方創生は、前回は小項目の位置づけだった。だが今回は大項目だ。農林水産から大学から観光から安全・安心から。テーマてんこ盛り状態だ。お国のための地方総動員。その色彩が一段と深まった。要注意である。
最後の「芯が出た」というのは、「1億総活躍推進」すなわち安倍政権によるお国のための1億総動員の食指が、「人」に向かっていよいよ本格的に伸びてきた、という意味である。妖怪の本性見たり、人食いお化け。こんな感じだ。
今回の演説の軸がここにある。「働き方改革」が土台。その上に「人づくり革命」と「生産性革命」の二つのブロックを積み上げる。この不気味な構造物をもって、人々を1億総動員体制に向かって押しまくり、追い立てていく。地方創生もこの構造物の補強材として位置づけられているのだろう。また悪口を言い続けなければならない一年が始まる。また楽しからずや。
※AERA 2018年2月5日号