こうして天然物由来の成分が病に苦しむ人たちを救ってきた一方で、大企業が手つかずの人里離れた地へと探索のフィールドを拡大させる傾向には、議論もある。

 例えば、メルク社は91年、中米の小国コスタリカの国立生物多様性研究所との間で契約を交わし、一時的な対価として100万ドルを支払い、コスタリカの天然生物資源の標本を採集する権利を得た。植物や昆虫、微生物の遺伝子情報を提供し、実際に創薬につながれば、同社は売り上げの一部を同国政府と研究所に支払うという契約だ。ただその利益配分の基準に定めはない。

 10年には名古屋で第10回生物多様性条約締約国会議が開催された。この条約には、「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分」が盛り込まれたが、製薬大国の米国は自国の産業保護の目的もあり、いまだに批准していないのだ。

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