

体質改善に目を向ける東洋医学は、獣医学の分野でも注目されている。漢方処方や鍼治療はもちろん、お灸も据えてしまう。「ネコにも漢方」の時代なのだ。
木製の診察台。柔らかな照明。薬やアルコールのにおいは一切しない。動物が緊張しないよう細心の注意を施したのが、成城こばやし動物病院(東京都世田谷区)の「鍼・漢方」専門の診察室だ。飼い主のニーズを踏まえ、2016年12月に開設した。
鍼・漢方外来担当の山内明子獣医師は言う。
「ここはおうちのリビングみたいなイメージです。西洋医学のステンレスの診察室だとブルブル震える子も、ここでは震えが収まるんです」
東洋医学(漢方)の診察は手で触ったり、においをかいだり、五感を働かせる部分が多い。
「明るい光の必要性は感じていません」(山内さん)
診察室にはX線、CT、MRIといった医療機器も置かれていない。その代わり、飼い主との対話に十分な時間をとり、日常の様子や体調の変化などを入念に聴き取る。
「麻酔をかけたり、体を押さえつけたりしなければならない検査は一つもありません。飼い主に頭をなでてもらっている間にできることのほうが多いです」
山内さんはそう言って、受診に来たネコの顔をのぞきこみ、耳たぶや舌の色をチェックする。飼い主の女性によると、ネコが心筋炎を患ったのをきっかけに、山内さんのもとに通うようになったのだという。ネコの耳たぶを触りながら山内さんは「熱がこもっていますね」。女性にも触って確認を促した。
続いてネコの体全体を優しく触診し始めた。イヌやネコのツボは、世界保健機関(WHO)が決めた人間のツボの数と同じ361カ所。背中のラインは集中している。ツボ周辺の張りや凹凸を探り、脚の付け根部分で脈を取って治療方針を決める。
「今日は熱を取るツボに鍼を刺します。一番大きなツボは首の付け根にあります」