もっとも、仮に都心部に北朝鮮の核ミサイルが着弾すれば、避難時間がいくらあっても足りない。しかし、黒井さんは、「核ミサイルが着弾した地点にいれば避難しても助からないと、訓練を『無意味だ』と誤解している人がいる」を指摘し、こう話す。
「たとえば広島の場合、たしかに半径数百メートル内にいた人の多くは瞬間的に致命的な被害を受けましたが、とくに1キロ前後から数キロ圏にいた人々では建物内にいたか、あるいは屋外にいたかで致死率が雲泥の差になった。周辺部分の被害をどう最小化するかという点において、訓練は必要と考えます」
アメリカの北朝鮮専門研究機関「38ノース」が昨年10月に発表したリポート「ソウルと東京に核攻撃があったら~朝鮮半島有事の人的被害」によれば、北朝鮮が保有する核ミサイルは20~25発で、核弾頭の威力はTNT火薬換算で15~250キロトン。仮に広島の15倍以上の威力のある250キロトンの核ミサイルが東京中心に着弾すれば、死者は70万人、負傷者は約247万人になると推計されている。複数のミサイルが着弾する最悪の想定では、死者は180万人に上る。黒井さんは言う。
「自衛隊の弾道ミサイル防衛は現在、海上自衛隊のイージス艦(SM3搭載型)4隻と、航空自衛隊の地対空誘導弾(PAC-3)の二段構えで、これに米軍のイージス艦も加わります。将来的には自衛隊のSM3搭載型イージス艦は8隻態勢となり、陸上配備のイージス・アショアも加わる。これらはいずれも精度は高いが、撃ち漏らす可能性もゼロではない。被害を最小化するためには、とにかく避難する。地下に逃げなければならないと誤解している人もいるが、Jアラートの発出に手間取れば4~5分の猶予が常に必ずあるとは限らず、地下を探している間に着弾するかもしれない。Jアラートが鳴ったら、すぐに近くの鉄筋コンクリート造の建物に避難するのが一番です」
仮に今後、北朝鮮内での内乱や、アメリカと北朝鮮が戦争を始まれば、日本国内の緊張感も高まり、避難行動への意識も高まるだろう。そうなれば、実際にJアラートが鳴った際の混乱も生じるかもしれない。避難訓練後、内閣官房の担当者は訓練について一定の評価をしたが、予定調和の避難訓練で約4分間かかった現実への対応も求められるだろう。(AERA編集部・澤田晃宏)
※AERAオンライン限定記事