「切手にはデザインと印刷技術の要素が詰まっている」と語る、ブックデザイナーの守先正さん。多摩美術大学でタイポグラフィーの講義も担当する守先さんに、切手デザインの魅力について聞いた。
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切手を集めるようになったのは小学2年生の頃です。当時、第2次切手ブームが始まって、「ビードロを吹く娘」を切手雑誌の懸賞で当てたこともあります。
切手デザインの面白さは、要素の何を省いて何を残すか、ということ。それから小さなスペースの中でのバランスです。たとえば大人になってから感心したのが、小林古径の「髪」を使った切手。数字の「15」を普通ここには置けないと思うんですよ。でも上にあげると人物のバランスとそぐわず、変な空間が空いてしまう。絶妙な位置にあるんです。アールデコっぽい丸い数字や文字もいい。近年は切手にも既製の書体が使われていますが、この頃は図案として手で描いたものです。
1964年の東京オリンピックの記念切手もいいですよね。この頃のデザイナー(当時は郵政技官)ですが、本当に優秀だと思います。4、5人で手分けして絵も字も描いている。字もものすごくうまいです。
同じデザインが複製されてたくさんあるのが好きなんです(笑)。今、ブックデザインの仕事をしていて、書店にデザインした本が並ぶのが嬉しいんですが、切手にルーツがあると思います。
最近、気に入っているのはオランダの切手デザイン。世界的なデザイナー、イルマ・ボームが手がけた切手には、トリミングの仕方、色の使い方など、デザインの要素すべてが入っています。
海外ではグラフィックデザインの年鑑に切手が載っているのに、日本では別のものとして扱っている。公共デザインである切手を正当に扱うべきではないでしょうか。
(ライター・矢内裕子)
※AERA 2018年1月15日号より抜粋