

「プラダを着た悪魔」で一躍有名になったスタンリー・トゥッチ。ハリウッドの名バイプレーヤーは監督、そして6人の子の父としても多忙な日々を送っている。
社会派から娯楽大作までさまざまな作品に登場し、まれなるインパクトを残す俳優・スタンリー・トゥッチ(57)。実は監督としても知られている。新作「ジャコメッティ 最後の肖像」では、天才彫刻家の晩年の18日間にフォーカスした。
「僕はいわゆる『伝記映画』には興味がない。今回は肖像画のモデルとなった作家・ロードが書いた原作に惹かれたんだ」
舞台は1964年のパリ。ジャコメッティに「すぐ終わる」と言われてモデルになった青年は、描いては消し、かんしゃくを起こす芸術家と永遠に続くかのような時間を過ごすことになる。
「ジャコメッティは持てるエネルギー全てを芸術に費やしていた。友人たちには寛大だったのに、恋愛や妻との関係には自己中心的なところがあって、それもおもしろいと思ったんだ。アーティストは誰もが創作だけをして生きていきたいと思うけど、誰もがそうできるわけじゃない。僕にしたって、家族を持ち、子育てをしながら物をつくる生活をしているからね」
トゥッチの父はアーティストで美術教師。母は作家。幼少からアートに親しみ、特にジャコメッティと親和性が高かった。
「彼の彫刻は現代的で、同時にいにしえのものでもある。見れば見るほど内側にあるものを感じさせるんだ。彼について書かれたものを読むと、彼が自分の創作のプロセスを実に饒舌に、言葉に落とせる人だとわかる」
例えば「何かを作る人間は作り終えても、まだ再考しているものだ」という考えにシンパシーを感じるという。
「役者としては演じ終わったら、それを箱に閉じ込めてすばやく消去するのが正しいやり方だろうね。僕が『ラブリーボーン』(2009年)で演じたキャラクターは最悪だったよ。いままでの役のなかでも一番きつかった。あんな最悪な人間の心象風景に身を置かなければならないなんて! でも最終的に引き受けてよかったと思える。たくさんのことを学んだから」