首都圏の市役所に40年以上勤めてきた女性は、先ごろ65歳で仕事をリタイアした。定年は60歳だったが再任用が続き、その後、5年間働き続けた。
3人の子を育ててきた、ワーキングマザー。産後は9週で仕事に復帰。第2子の出産後、保育園の送り迎えに車が必要となったときには、産後1カ月で教習所通いをしたという。
「40年を経たいまなお忘れられないのは、泣き叫ぶ子どもに後ろ髪を引かれながら保育園を後にした情景です。自分のしたことは本当に正しかったのか。いまだにそう思うことがあります。でも、完走した自分を褒めてやりたい気持ちもあります」
取材したのは女性がリタイアして2カ月ちょっと経ったころ。しかし女性は新たな焦燥のなかにいた。1カ月前から職探しを始めていたのだ。
「家にいても張り合いがないんです。会話する相手は夫だけ。新聞を読んでも広がりがありません。人生100年時代に入り最も大事なのは健康でいることだと思うのですが、このままだと脳が活性化せず、老化の一途をたどってしまう。すごい危機感を覚えました」
週に数日でいい。社会に少しでも貢献できる場所がほしい。ハローワークや、地域の中高年向け就労支援事業所に足を運んでいる。
「公務員生活が長かったので井の中の蛙だと自覚しています。経験したことのない仕事で世界を広げたい。最近、67歳の人が仕事を見つけたと聞いて励まされました」
前出の井戸さんは言う。
「女性の人生は四つのステージに分けられます。50歳から75歳までの第3ステージは、子育てが終了し『個』に戻れる時期。会社や家族にとらわれることなく、好きなことにチャレンジできる。定年後のお金の不安や孤独感を和らげる最短の道は少しでも働き収入を得ること。本当に好きなことを仕事にして輝かせてほしいです」
(編集部・石田かおる)
※AERA 2018年1月15日号より抜粋