ファッション用のウィッグは良質で安価なものが増えたが、医療の現場では依然、メーカー主導で高価格な商品の流通がメインだった。村橋さんは言う。
「病気のことだけで不安なのに、何の知識もないままウィッグを選ぶのは経済的にも精神的にも負担が大きいと感じました」
ヨーロッパの先進的な病院では、院内で理髪やネイルやエステの施術を受けられることを知って、地元・港区と病院と連携して相談室を開設したが、最初は閑古鳥が鳴いていた。
「ウィッグメーカーの営業と間違われることも多かった。看護師さんとおしゃべりをして帰るだけの日もありました」(村橋さん)
抗がん剤の種類別の副作用を学んだり、メーカーを訪ねて自らもウィッグをオーダーしたり。信頼関係ができるにつれて、患者を紹介してもらえることが増えた。病院では相談と試着のみ。販売と一人一人に合わせたウィッグのカットはサロンで行う。相談自体は無料で、ウィッグの販売による利益は少ないが、本業のカットではきっちり料金をもらう。ボランティアではなく仕事にすることで、後進が続くと考えている。
「自分に合ったウィッグに出合えず、『似合わないから』と家に閉じこもってしまう人もいます。美容師の技術とセンスを、患者さんの自信や喜びにつなげることができたら」(同)
(編集部・高橋有紀)
※AERA 2017年12月18日号より抜粋