快挙を達成した後、笑顔で新聞を開く羽生善治新竜王。まだまだ強さは健在だ (c)朝日新聞社
快挙を達成した後、笑顔で新聞を開く羽生善治新竜王。まだまだ強さは健在だ (c)朝日新聞社
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 史上最強の士が覚醒した。史上初の称号、永世七冠だ。折しも将棋界は彗星のごとく現れた10代で話題は持ち切り。ちょっと待て。羽生がいる。

「神武以来(このかた)の天才」と言われた加藤一二三(ひふみ)九段の引退と、前後してわき起こった「ひふみん」ブーム。そして新時代の天才、藤井聡太四段の新記録29連勝の達成。2017年、将棋界は史上空前と言えるほど、社会的に注目された。そして12月5日、そのトリを飾るにふさわしい空前の偉業が達成された。羽生善治の「永世七冠」である。

 将棋界では長らくの間、名人、竜王、王位、王座、棋王、王将、棋聖の各棋戦を「七大タイトル」、あるいは「七冠」と称してきた(17年には叡王戦が加わって八冠に)。これらのタイトル保持者と、トーナメントやリーグ戦を勝ち抜いた挑戦者が、七番か五番の頂上決戦をおこなう。生涯に一度でもタイトルを取れば、将棋史に名を刻むトップクラスの棋士なのだ。

 1985年、15歳でデビューした羽生は89年、19歳で初タイトルの竜王位を獲得。25歳で七冠の同時制覇という空前の記録も達成している。その後も第一人者としてタイトル獲得を重ね、ついには中原誠(64期)、故・大山康晴(80期)を抜き、「史上最強」と呼ばれるにふさわしい実績(99期)を打ち立てている。

 さらなる高みがある。各タイトル戦はそれぞれ「殿堂入り」ともいうべき永世称号が設けられているのだ。資格の達成基準は、例えば名人戦なら通算5期で「永世名人」の資格を得られる。江戸時代の一世名人・大橋宗桂から数えること19代目、十九世名人が羽生だ。

 その最強棋士が取りこぼしていた数少ない勲章のひとつが、「永世竜王」の資格だった。

 達成基準は連続5期か通算7期。通算6期だった羽生は、あと1期だけ足りない状態が長く続いていた。「竜王」は、羽生よりも一回り以上若い渡辺明が絶対的な強さを誇ったタイトル。連覇を続ける渡辺に08年、羽生は挑んだ。

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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