竹脇は戦後の豊かな時代に真っすぐに生きてきた実直な男である。送別会に100人以上集まったことだけでも竹脇の人柄がよく見えてくる。

「最初は偉い人を書こうと思った。それは金持ちとか地位ではない。彼は自己反省ができる男で人望があった。偉い人って突き詰めていくと、そういう類型になります。竹脇は定年までの人生について納得していた。ただし納得できない2点を抱えている、これは解決できないのです」

 物語は、妻と娘、娘婿の青年、幼なじみの大工の棟梁、竹脇とは偶然通勤電車で20年来の顔なじみだった担当の看護師といった面々が登場する。そして夢幻世界で登場する隣のベッドで眠っている戦中派の爺さんや女たち。さらにもう一つの主人公、浅田さんがこだわるのが地下鉄だ。

「僕が子どもの頃、地下鉄は丸ノ内線と銀座線しかなかった。地下鉄ってミステリアスな雰囲気があって非日常感がある。車両もきれいで凝っている。地下鉄ってネーミングも考えてみればすごい」

 冒頭、竹脇は送別会帰りの地下鉄で倒れる。地下鉄はさまざまな状況で物語に関わっていく。この舞台装置が絶妙なのだ。そこに込められたメッセージこそ物語の核心ではないか。(ライター・沢田竜次)

AERA 2017年12月11日号

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