Gang Dong-won/1981年生まれ。2000年にモデルデビュー。03年にドラマ「威風堂々な彼女」で俳優デビュー。数多くの映画に出演するほか、ユニクロのアンバサダーも務めている(撮影/鈴木芳果)
Gang Dong-won/1981年生まれ。2000年にモデルデビュー。03年にドラマ「威風堂々な彼女」で俳優デビュー。数多くの映画に出演するほか、ユニクロのアンバサダーも務めている(撮影/鈴木芳果)

 韓国で言うイケメン「花美男」の元祖的存在だった。カン・ドンウォンも、36歳。小顔の8頭身は相変わらずだが、もう「アイドル」という言葉は似合わない。

「『これこそ、演じるのが一番難しいキャラクターだ』と思ったことは今まで何度もありますが、今回の役こそ、その最たるものだと思います」

 カン・ドンウォン(36)は、そう口を開いた。現在公開中の映画「MASTER/マスター」に、警察の知能犯罪捜査班班長役で出演している。

 彼が追うのは、個人投資家から巨額の資金を集め、国家の要人に賄賂をばらまく犯罪組織のトップ。希代の詐欺師でもあるその人物をイ・ビョンホンがいかがわしさたっぷりに演じているのに対し、ドンウォン演じるエリート刑事は一見わかりやすい、真っすぐな正義の味方。だが演じてみると、感情を抑えた役は微妙な描写が難しく、タフな挑戦だと気づいたという。

「僕が演じた刑事が怒ったり笑ったりしないのは、ただ感情表現がうまくできないだけなんだと解釈しました。内向的で用心深い人物なのです。そう気づいてからは、几帳面(きちょうめん)に見えるように注意しました。彼の気持ちが伝わるように、脚本よりも少しだけ、感情を込めました」

 モデル出身で、2003年の俳優デビュー当時は186センチの長身と小動物のように愛くるしいはにかんだ笑顔でアイドル的人気を集めたが、いまはすっかり演技派の映画俳優だ。毎年1~3本の作品に主演する多作な役者として知られている。

 作品を選ぶ基準の一つは、ストーリーに政治的・社会的問題を巧みに絡めていること。実際にあった詐欺事件をモチーフにした「MASTER/マスター」に出演を決めたのも、強いものが弱いものを搾取する社会に疑問を感じていたからだ。

「俳優の仕事は演技を通じて時代を代弁することだと考えています。時事的なこと全般に関心があって、ニュースを読んで勉強しています」

 もう一つの基準は、これまで自分が一度もやったことがないキャラクターであることだ。

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