厚生労働省自殺対策推進室が発表した「人口動態統計に基づく自殺者数」によると、2016年の自殺者数は約2万1千人と過去10年で最も少ない。一方で、20歳未満の自殺者は近年500人前後で推移し、減る気配がない。
座間事件の被害者の中にもツイッターに「死にたい」と書き込んでいた人がいた。だが、白石隆浩容疑者(27)は「本当に死にたいと思っている人はいなかった」と供述している。「死にたい」が「寂しい」だとしたら、その深い孤独に大人はどう向き合えばいいのか。
NPO法人パノラマ理事長の石井正宏さん(48)は、7年にわたって高校生対象の相談員を続け、現在、神奈川県の県立高校で「放課後カフェ」を運営している。生きづらさを抱える中高生と大人を結びつける場所として、近年、神奈川と大阪を中心に広がりつつあるこの取り組みの第一人者だ。
座間事件の直後、2年周期で死にたくなるという20代の男性に「君はなぜサバイバルできたんだろう?」と尋ねた。答えは「人に散々迷惑をかけながら生き延びてきたのかな」。
石井さんは言う。
「彼らには、迷惑をかけ、依存できる人が必要だと思う」
依存という行為はネガティブに受け止められることもあるが、石井さんは、脳性まひの医師・熊谷晋一郎さん(40)の「自立は、依存先を増やすこと。希望は、絶望を分かち合うこと」という言葉が真理だと考えている。熊谷さんは、障害を抱える人たちが互いに協力し課題を解決していく「当事者研究」をリードしている人物でもある。
以前は、学校が中高生の依存先でもあった。授業のみならず部活動や生徒指導の場でも、教師は彼らと向き合ってきた。
「学校はもう依存先ではありません。教師たちは多忙で限界を迎えている。先生がオールマイティーな時代は終わったんです」
と石井さん。実は、中高生は中高生なりに微弱なSOSを出している。でも、放課後に「ちょっといいですか?」と担任に近づいても、話してくれるのは数回に1回程度。それを聞いた教師らは、
「聞かなきゃと思うけど、会議があるから行かなきゃ。でもほとんどの場合、会議より話を聞くほうが重要だったと後悔する」
こうして中高生は絶望し、ネットで漂流し始めるのか──。