向こうに見えるのは座間事件の現場となったアパート。事件後、ツイッターなどを監視する動きが強まっているが、ある私立高校の教員は「管理より解放が必要なのに」と懐疑的だ (c)朝日新聞社
向こうに見えるのは座間事件の現場となったアパート。事件後、ツイッターなどを監視する動きが強まっているが、ある私立高校の教員は「管理より解放が必要なのに」と懐疑的だ (c)朝日新聞社
この記事の写真をすべて見る

 神奈川県座間市のアパートで、3人の高校生を含む男女9人の遺体が見つかった事件。これほど多くの若者がSNSに「死にたい」と書き込んでいることに、驚いた人も多かったのではないか。

 この事件を知ったとき、同じ県内に住む大学1年生の女性(18)は動悸が治まらなかった。

「私だってあのアパートに行ったかもしれない」

 親の薦めで入学した進学校になじめず、高校1年で不登校に。アプリ「ツイキャス・ライブ」でスマホやパソコンからライブ配信される映像を、ベッドの中で見続けた。登場するのは会社員や学生など一般人。他愛のない世間話に逆に癒やされたという。お気に入りの男性は「アイドル」。人気者だと一度に3千人ほどがライブ配信に集まり、そこでの交流も楽しかった。

 女性は言う。

「集まってくる人は癒やしを求めていた。だってリアルはキツいもん。親が大変、学校が大変って言う不登校やひきこもりの人がほとんど。自分と同じようにリアルから逃げてきた人ばかりだから気が楽だった」

「リアル」は現実の生活のこと。学校にいる数少ない友達から「大丈夫だよ」とLINEが来れば「ありがとう」と返したが、内心は「あなたは学校行ってるじゃん」。大人たちの「昔、私も不登校だった」という共感にも素直になれず、「過去はそうでもいまはちゃんとしてんじゃん! 私の未来なんかどこにもないよ」と心で叫んだ。倒れそうになりながらたまに学校に行けば「みんなといてもひとりぼっちだ」と感じ、「自分はいないほうがいい」と思い詰めた。

 ネットの世界でも孤独は変わらなかった。何度も見かけた「死にたい」のつぶやきに「私でよければ話聞くよ」とダイレクトメッセージ(DM)を送っても、「ありがとう。大丈夫」と返されるだけ。言葉のやりとりだけでは本当の友達にはなれない。虚脱感に襲われた。

「寂しかった。座間の被害者も、私と同じ気持ちだったと思う」

 彼女自身も、DMで「会わない?」と男性に誘われたことがある。検索すると、その男から暴力を受けた、などの書き込みがあった。

「誘ってきた人が悪い人だと事前にわかったから断れた。わからなかったら行ったかもしれない。死にたいくらい(気分が)落ちているとき、その人がいい人なのか、危険な人なのかなんて判断できないと思う」

次のページ