好きな場所で家族に囲まれながら穏やかな最期を迎えたい。そう希望する人たちの一つの選択肢となっているのが在宅医療だ。
中でも医療法人社団悠翔会は10の診療所を有し、常時3500人もの患者の往診等を行っている首都圏最大級の在宅医療専門クリニック。その多くは末期がんや老衰で人生の最終段階にある人たちであるため、毎年800~900人もの患者を看取っている。自らも多くの患者を看取ってきた佐々木淳理事長は「残された家族が納得できる死に方が、私が考える“いい死に方”」と話す。
「印象に残っている患者さんの一人にフリーのSEの方がいます。末期がんを患っていたのですが、患者さんは『今、請け負っている仕事だけはやり遂げたい』と希望されました。奥様も本人の希望をかなえたいという。私たちは例えば腹水がつらいときには水を抜いたり、だるさが強いときにはステロイドを投与するなど在宅で緩和医療を提供し、ご家族のほうでは寝たきりでもパソコンが打てるような設備を整えていき、亡くなる3日前に見事に仕事をやり遂げられたんです。最期は奥様が友人・知人にお声掛けされ、多くの方に見守られながら息を引き取りました」
だが思い通りの最期を迎えるためのハードルは低くない。
「2040年以降は年間170万人が亡くなり、そのうち70万人を自宅で看取らないと死に場所がなくなると言われています。しかし現状はご自宅で看取られる方は年間10万人程度。圧倒的に在宅医療に携わる医者が足りない」
政府のバックアップが欠かせない。(構成/ジャーナリスト・田茂井治)
※AERA 2017年11月20日号より抜粋