経済専門家のぐっちーさんが「AERA」で連載する「ここだけの話」をお届けします。モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がけるぐっちーさんが、日々の経済ニュースを鋭く分析します。
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アメリカに住んだことのない方には分かりにくいかもしれませんが、今回のワールドシリーズ(WS)でのグリエル選手のダルビッシュ投手に対する侮辱行為は改めてアメリカの人種差別の根深さを見せつけたと言っていいと思います。ダルビッシュ投手の極めて洗練された対応で、結局WSではなく、来年のレギュラーシーズンでの出場停止という処分で落ち着きましたが、大リーグ機構(MLB)から見ればとんでもない事態であり、ダルビッシュ投手は大したもんだと思います。
事の発端は、ホームランを打ってベンチに帰ってきたグリエル選手がダルビッシュ投手に向かって、アメリカ人がアジア人を侮蔑するときに使う、目を両側に引っ張って、にーっと笑うポーズをしたことから始まりました。中継でばっちり映っていましたので、見ていた方も多いと思います。この侮蔑行為は、私もされた経験があります。
アメリカの漫画に出てくるアジア人は、目が横線一本で描かれるものが多く、つまり一重まぶたを表しています。ダルビッシュ投手のルックスとは程遠いわけですが、アジア人に対するステレオタイプの侮辱行為と言えます。何が根深いのかと言えば、グリエル選手の出身はキューバで、アメリカ社会ではむしろ差別される人種に属します。差別を受けるものが、自分たちより劣勢と思う連中をさらに差別する、「差別の連鎖」が存在するという点にあります。
同じ白人といってもそこには歴然とした階層があり、厳密なピラミッドが存在します。トップはアングロサクソン系(WASP)。ブルーブラッドと呼ばれ、WASPを頂点とした白人ピラミッドができており、最下層にはオランダ系(ダッチ)、ポーランド系(ポーリッシュ)などが存在します。日常の会話で出てくる彼らをいじったジョークはあまりにも下劣でここで書けるようなものではありませんが、割り勘がダッチアカウントだったり、何をするかわからない人をダッチロールと呼んだりと、16世紀にイギリスで生まれた使い方がいまだに残っていることでもご理解頂けるのではないでしょうか。その下層にいる白人が強烈な人種差別を黒人、アジア人、ラティーノなどにすることが多く、黒人に対する発砲事件を起こす白人警官は大体そういう階層の人たちなのです。
※AERA 2017年11月13日号