姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
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本稿が出るころには選挙結果も出ていることでしょう。今回の衆議院選挙を一言でいうならば、安倍晋三首相に対する、信任もしくは不信任の選挙であった、そう総括ができると思います。政権交代選挙でもなく、華々しい野党が二つ出来上がって政局が変わった、そういう選挙でもありませんでした。
政権包囲で進められてきた選挙のはずなのに、事前のマスコミ調査では、自公が300議席を超えるという情勢です。この選挙の最大の主人公はやはり安倍首相で、希望の党の小池百合子代表や立憲民主党などの野党共闘も含めて、幸か不幸か脇役だったと言えます。
かつての自民党の中には野党と与党について、ある不文律がありました。政権交代が行われなくても野党の意見を吸収しつつ、派閥のローテーションによって「疑似」政権交代を成し遂げてきました。このこと自体は、もたれ合いという否定的な言い方もできますが、一強体制は保守の本領からしてもそぐわない、という暗黙の合意がかつての自民党にはあったのです。
安倍継続かポスト安倍か。いずれにせよ一強体制が続く可能性は濃厚です。
そしてもう一つの注目点は、有権者にとっての政権交代ができるようなオルタナティブのコアが出来上がるのかどうかでしょう。本来であれば、受け皿としてのリベラル派が最低限3分の1の議席数を確保し、そこから連立を通じて政権交代をするなり、自民党もいまのような一強体制から脱却して政権交代をある程度許していける、そういう融通の利いた保守与党へと脱皮するのが理想だといえます。ドイツのような連立政権による健全な政権交代のローテーションができる、そういう政界地図へと日本も変わっていくべきなのです。
リベラル野党のような勢力がより結集していくかどうかは、元民進党で無所属で出馬した重鎮たちの動向に注視してほしいと思います。さらには、希望の党が政策的に与党と協力し合うことになれば、民進党から「間借り」した議員が離脱する可能性は十分あります。
“政界ビッグバン”が始まった──と言っていいでしょう。
※AERA 2017年10月30日号
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