栄誉礼・儀仗で巡閲する安倍晋三首相と小野寺五典防衛大臣/9月11日、防衛省で(c)朝日新聞社
栄誉礼・儀仗で巡閲する安倍晋三首相と小野寺五典防衛大臣/9月11日、防衛省で(c)朝日新聞社
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 自民党は今回の選挙で初めて、9条に自衛隊を明記する改憲を公約として打ち出した。北朝鮮の核・ミサイル危機の最中の選挙。この先に何があるのか。

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 京都府舞鶴市は、昭和の大ヒット曲「岸壁の母」の舞台となった街だ。戦後、多くの引揚者や遺骨を迎え入れたその岸壁に、今は海上自衛隊の護衛艦が連なって停泊している。衆院選公示日の10月10日。日本海を管轄する海上自衛隊の最重要拠点、舞鶴基地前を「第一声」の場所に選んだ候補者がいた。京都5区から立候補した、元防衛省情報本部副本部長、希望の党新人の井上一徳氏(55)だ。

「皆さんと一緒にしっかりとした防衛態勢を確立いたします」

 井上氏に自民党の改憲公約について聞くとよどみなく答えた。

「自衛隊の存在が違憲だという意見に終止符を打つためにも9条改正は必要だと思います」

 希望は「9条を含む改憲論議は進める」と公約。自民が掲げる「9条への自衛隊明記」は「国民の理解が得られるかを見極める」と留保するが、内実はほぼ足並みがそろう。選挙後は自民と連携し、一気に改憲議論が進む可能性も否定できない。

 谷垣禎一自民党前幹事長の引退で、新人5人が立候補する保守分裂の激戦区となった京都5区。衆院解散後の9月30日、安倍晋三首相が最初の本格的な地方遊説に選んだのもここだった。

■「戦死」は存在しない

「激戦区のてこ入れ」だけが理由ではない。北朝鮮危機に対応する最前線は、首相にとって「国難突破解散」を象徴的にアピールできる場だったのではないか。同市内の会場で、自民新人の本田太郎氏(43)とともに演台に立った首相は舞鶴基地へ移動し、北朝鮮の弾道ミサイル警戒にあたるイージス艦の甲板で、乗組員らにこう訓示した。

「諸君の前には荒れ狂う海が待ち構えているでしょう。しかし、私と日本国民は常に自衛隊員とともにあります」

 夕闇迫る艦上で整列した乗組員らに語る最高指揮官に、ある隊員は「戦争みたいだ」ともらした。首相は10月8日の党首討論会でも切迫感を示した。9月の国連安保理決議による北朝鮮への経済制裁で「時を経ると緊張していく可能性もある」と解散を急いだ理由を語った。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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