現在はベースとなるNYのみならず、米国各地、南米、ヨーロッパでライブを行いながら、アーティストへの楽曲提供やプロデュース、執筆活動も行っている。写真/東川哲也(写真映像部)
現在はベースとなるNYのみならず、米国各地、南米、ヨーロッパでライブを行いながら、アーティストへの楽曲提供やプロデュース、執筆活動も行っている。写真/東川哲也(写真映像部)

「2018年だったかな。デトロイトのジャズフェスティバルに参加したときに『これから17秒で僕のバックグラウンドを簡単に話すね。日本ではポップスターだったんだ、例えばジャスティン・ビーバーみたいな』と話したら、どっとウケて。それで『27年間でシングルを27枚出して、なぜか47歳でこっちに来て……これで現在17秒。じゃあ聴いてください。そんな僕がゼロから作ったジャズのデビュー曲“男子成熟するには時間を要す”』って言ったら、会場が『イエーイ』って一体になって。そこでピアノを演奏し始めたとき、すごく気持ちよくて。アメリカで挑戦してきた自分へのエールを感じた瞬間でした」

 英語は「学問というより素敵なツール」だと話す大江さん。

「誰しもがもっている、社会や世界に関わって何かを変えていく力になりたいという素直な気持ち。その気持ちをストレートに相手の心に届ける素敵なツールが英語だと思っています。英語を学ぶことによって、知らなかった価値観や文化の背景に触れることができる。そうすると『違うということ』の素晴らしさや、そこに交ぜてもらう喜びや、さらにその喜びを誰かに伝える嬉しさなど、素敵なことがどんどん増えていくのです」

 とかく間違うことを恐れがちな日本人については、恥ずかしがらずに相手の懐に飛び込んでほしいとエールを送る。

「僕が英語を書いたり話したりしているとき、間違いを指摘してくるのは100%日本人なんです(笑)。間違いを正すのは大事だけれど、もっと大事なことは、英語を通じて未知の世界を拓くこと。自分の概念や思い込みをぶっ壊して、新しい何かに触れて世界が広がっていく喜びこそが大切なことだと思います。80歳でも90歳でも何歳でも、違う言語で新しい世界を切り拓いていくのは、めちゃくちゃ楽しい冒険であり、探検なんです!」

(文/上野裕子)

○大江千里/1960年生まれ。83年にシンガー・ソングライターとしてデビュー。「十人十色」「格好悪いふられ方」「Rain」「ありがとう」などのシングルがヒット。日本の音楽シーンで不動の地位を固める一方、俳優としても数多くの映画やテレビドラマに出演する。2008年にジャズピアニストを目指し渡米、NYのThe New School for Jazz and Contemporary Musicに入学。12年の卒業と同時に自身のレーベル「PND Records & Music Publishing Inc.」を設立。同年1stアルバム「Boys Mature Slow」でジャズピアニストとしてデビューを果たした。

※『AERA English2023』から抜粋

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