自宅で仕事をすれば通勤が不要になって時間を有効に使えるし、早く帰るからと周囲に気兼ねする必要もなくなる。メリットばかりのはずだった。
大泉りかさん(40)は、長男(0)を認可保育園に預けて自宅で執筆活動を続ける「小説家」だが、7月のある日、保育園の担任から呼び出された。そして、
「区役所に何度も、保育園に子どもを預けている時間に遊び歩いているという投書があった」
と聞かされた。
●在宅ワークあるある
自営業やフリーランスで自宅で仕事をしている場合、昼食や打ち合わせのために昼間の時間帯に外出することはままある。その姿を近所の知り合いに見られ、「あの人、本当に仕事しているの……?」と疑われるというのは、実は「在宅ワークあるある」。待機児童問題が深刻ないま、「働いてなさそうなあの人の子が認可保育園に入れて、うちの子が入れないのはなぜ?」とやっかまれてしまうのか。
自営業者が認可保育園に子どもを入園させるハードルは高い。自治体によっては居宅内労働の場合、ポイントが低めに設定されているし、就労を証明するために膨大な書類の提出が求められる。
大泉さんは、正当な手続きを経て長男を認可保育園に入園させ、しっかり働いている。幸い退園を迫られることはなかったが、いまだに「犯人」はわからない。
そもそも、自営業には産休も育休もない。産後すぐに働かなければお金は入ってこないし、ブランクがあけば得意先との関係が疎遠になり、仕事の発注がなくなるリスクもある。大泉さん自身は、親に頼れる人や、正社員で育休などの制度に守られている人を「うらやましい」と思う。隣の芝生が青く見えるのは、誰でも同じなのだ。
「『うちはうち、よそはよそ』と考えて割り切らないとだめですよね。この先も、仕事と子育てを両立させていくうえで、他人のことをやっかんだりずるいと思ったりしていちいちムカムカしていたら、つらいだけだと思うんですよ」
と大泉さん。
誰もがぎりぎりの状況で頑張らざるを得ないから、他人の事情を思いやる心の余裕が持てない。それが、仕事と子育ての両立を阻む「最大の壁」なのだ。(ライター・今井明子)
※AERA 2017年9月18日

