何やら聴き慣れぬ音色が近づいてくる。奏者の姿は見えない。正体は、新たな展開をみせているAI(人工知能)。人間と協調して演奏し、わずか数十秒で作曲もするとか。AERA 9月4日号ではAI時代の音楽を見通すアーティストや動きを大特集。
AIやデジタル技術に押され、アナログ演奏は衰退して……いない。酒場の「流し」、クラシック奏者の「出前」など、生演奏市場が活況という。
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目の前で生演奏を聴きたいというニーズの高まりは、積極的に演奏家を希望の場所に呼ぶサービスも誕生させている。
16年12月。横浜市内のある施設でクリスマスコンサートが開かれた。ベートーベンの「第九」に聴き入ったのは、全員65歳以上のシニア層だ。
ホテルのように豪華なこの建物は、住宅型有料老人ホーム・サンシティみなとみらいEAST。聴衆は入居者らだ。担当者はコンサートをこう振り返る。
「大変好評でアンコールも出るほど。入居者からは『最近はコンサートに行けなくなってしまったから、生で聴けてうれしい』という声もありました」
演奏家を派遣したのは、マネジメント会社「アズアーティスト」。クラシックやジャズなどのジャンルで約180人の演奏家が所属している。
●音楽好き多いシニア層
事業を統括する加藤ゆりさん(53)によると、バブル期には毎日のようにレストランやホテルなどで生演奏が見られたが、バブル崩壊、リーマン・ショックで、右肩下がりに。そして、東日本大震災。さらに演奏の場は少なくなった。
そこで目を付けたのは、先の有料老人ホームなどのハイクラスの高齢者向け施設だった。積極的に営業した結果、現在は関東だけでも20カ所以上に演奏家を派遣しているという。
「ハイクラスの施設には、かつてクラシックを聴き込んだという、耳の肥えた方が結構多いんです」
と加藤さんは話す。
生演奏需要の掘り起こしは、欧米などに比べ、演奏会自体が少ない日本では、新たな活躍の場の増加につながり、腕のある奏者にとっても朗報だ。