生活習慣、思考様式、味覚……普段は意識しなくとも、ふとしたときに表れるのが「東」と「西」の違い。巨人と阪神を例に出すまでもなく、永遠のライバル関係でもある。言葉の違いはもちろん、味覚の違いも大きい。では、その「境界線」は一体どこなのか?
【写真】つゆ以外にもこんな違いがあった!「東西比較一覧表」はこちら
* * *
『名字でわかる あなたのルーツ』(小学館)の著者で姓氏研究家の森岡浩さんいわく、名字の東西の境界線は、日清食品の人気カップ麺「どん兵衛」のつゆの分かれ目とかなり近いという。
「どん兵衛」は、かつおだしをベースとした濃口しょうゆの「東」と、昆布だしをベースにした薄口しょうゆの「西」でつゆの味を分けて販売しているのは有名な話。その境目は北は新潟県(東)と富山県(西)、内陸は岐阜県(東)と滋賀県(西)、南は三重県(東)と奈良県(西)で分かれている。
その境界線を決めた経緯について、日清食品ホールディングス広報部の担当者はこう回答した。
「東西の味覚の差がわかるような文献がなかったため、当時の開発担当者が、東京から新大阪まで新幹線『こだま』を一駅ずつ降りて、駅の立ち食いや駅周辺のうどんを片っ端から食べ、自らの足と舌で調査を行いました。その結果、(内陸部では)関ケ原付近に味の境界があることを突き止めました」
そのため、今でも関ケ原駅前の「関ケ原駅前観光交流館」では、「東」と「西」の両方をセットで買うことができるのだ。
●「文化分け目」の関ケ原
興味深い調査がある。関ケ原町役場が2016年3月に公表した「東西文化の調査報告書」では、「食」「ことば」「文化」の分野別で関ケ原町が境界線と思われる事象について調べている。滋賀県の東端にあたる米原市柏原学区の市民グループ「はびろネット」と関ケ原町が合同でアンケートとヒアリングを行い、それぞれの町の住民の嗜好を調査したという。たとえば「白ネギ(東日本)と青ネギ(西日本)」では「『すき焼きに入れるネギ』の場合、一番東よりの関ケ原中で青ネギを入れる割合は5.3%に対し、一番西よりの河南中の割合は30.3%になっており、西に行くにしたがって青ネギ使用が高くなっている」(中学生対象の調査)として、「関ケ原付近が境界線と考えられる」と記されている。他にも、「カレーに入れる肉の種類」「丸餅と角餅」「マックとマクド」など関ケ原付近が境界となっていると思われる事象が数多くあった。
関ケ原といえば、徳川家康が率いる「東軍」と石田三成の「西軍」が、計15万人以上の兵を動員して戦った「天下分け目の合戦」の舞台として有名な地。だが、それだけでなく、方言、名字、だしなどさまざまな文化の「境界線」でもあったのだ。(編集部・作田裕史)
※AERA 2017年8月14-21日号