建て替え後に完成したブリリア多摩ニュータウンには、565戸の元住民と684戸の新住民が生活する。趣味のサークルは25もあり、夏祭りやクリスマスなど祭事も活発。親子孫が相集って暮らすケースも (c)朝日新聞社
建て替え後に完成したブリリア多摩ニュータウンには、565戸の元住民と684戸の新住民が生活する。趣味のサークルは25もあり、夏祭りやクリスマスなど祭事も活発。親子孫が相集って暮らすケースも (c)朝日新聞社
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 7月半ば、東京都多摩市の「ブリリア多摩ニュータウン」(7棟・1249戸)にロシア国営放送の記者が来た。

「住民自身がどうやって快適なマンションに建て替えたのですか?」と問われた管理組合前理事長・加藤輝雄(70)はしばし考えた。「住民主体の文化の蓄積」に言及すると、相手は驚いた。

 ロシアの首都モスクワでは、市当局が老朽化した5階建てアパート約4500棟を取り壊し、高層ビルに建て替える計画を打ち出したが、住民側は「移転は嫌だ」と猛反発している。6月中旬の住民デモでは約900人が拘束されたとみられる。古い集合住宅の措置は世界共通の難題である。

 現在、日本の分譲マンション633万戸のうち築後30年超が172万戸を占める。スラム化が懸念される状況で、建て替えられたマンションは252にとどまる。住民合意の壁は厚い。かつて私が取材した神戸市のマンションは、阪神・淡路大震災後に住民の意見がまとまらず、ドロ沼の裁判闘争に突入した。震災から再建まで13年もかかり、新しいマンションの権利を保有できた元住民は全体の2割にすぎなかった。

●99.6%の合意という驚異 理事長が自殺の厳しい過去

 日本でも、デモこそ起きていないが、団地の建て替えは困難で、犠牲が伴う。だからこそブリリア多摩は異彩を放つ。元々、ここは「諏訪二丁目住宅」と呼ばれ、エレベーターのない5階建て、23棟、640戸が並んでいた。2010年に建て替え決議を可決して解体、着工。13年秋にブリリア多摩が竣工した。仮住まいをしていた元住民のほとんどが戻った。最後まで反対したのは2人、2世帯だ。もちろん2人の人権や財産権には十分な配慮が求められるが、全居住者の99.6%が建て替え事業に協力したことは驚異であろう。なぜ、大規模な団地で、奇跡的な合意率を保って建て替えができたのだろうか?

 後知恵で「条件がよかった」と言う人は多い。建物の容積率を50%から150%に上げ、新規に684戸を分譲できて再建費に充てられた。元住民は従来の住戸面積約49平方メートルを無償で手にできた(還元率100%)。住民の調整力が優れていた、などなど。

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