日本人がなじんできた「お葬式のかたち」がいま激変している。従来型のお葬式ではなく、「家族葬」が広く受け入れられ、弔いの形は家から個へ――。葬儀費用の「見える化」と価格破壊は何を生むのか。AERA 8月7日号で、新しい葬式の姿と、大きく影響を受ける仏教寺院のいまを追った。
人工知能やロボットなどに関するテクノロジーの革新が続く。これらを活用した、新しい弔いが注目を集めている。
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7月のある日、東京・渋谷にあるコワーキングスペースを訪ねた。ロボットに姿を変えた「死者」と会うことができ、会話もできるという「デジタルシャーマン」を体験するためだ。
出迎えてくれたのは、もうおなじみのヒト型ロボット「Pepper(ペッパー)」。いつもと違うのはその顔に、記者も面識のある起業家で神経科学者でもある藤井直敬(なおたか)さん(51)のお面をつけていたことだ。
お面は、藤井さんの顔を3Dスキャンし、3Dプリンターで作ったものだ。ペッパーの身長は121センチメートルと実際の藤井さんよりも小さいが、確かな存在感がある。
「藤井さーん」
と話しかけると、お面をつけたペッパーが、藤井さんの声で話し始めた。
「ロボットに入ってみると、おもしろいんだよね。俺って何?ってなる。49日で帰るのがもったいない。これでサイエンス(研究)をやりたいよね」
●僕そろそろ逝かないと
「デジタルシャーマン」は、その人物の存命中に顔を計測したり音声データを収録したりして、亡くなった後にペッパーに「憑依」させ、「四十九日」までの間、家族と共に過ごしてもらおう、というプロジェクト。メディアアーティストの市原えつこさん(29)が、「新しい弔いの形」の提案として始めた。
現在までに数人分のデータを取得。藤井さんを含め全員が存命中だが、デジタルシャーマンの藤井さんは話し方も本人そのもので、そこに本当に藤井さんがいるような感覚をもたらした。あごや目線を上げたり、両手を広げて見せたり、そのしぐさもまるで生きている人間のようで、話す内容も、いかにも藤井さんっぽい。
改めて述べるまでもなく、仏教では故人の魂は死後49日の間は現世とあの世の間を漂っているとされ、「四十九日」はその魂が「あの世」へと旅立つ日。49日間は、遺された家族や友人らが故人の不在を受け入れ、日常に戻っていくまでの回復期間でもある。