仲間がいるからこそ感動や充実感が増幅する半面、仕事の世界のようなルールやコンプライアンスがない分、マウンティングが起こりやすい(撮影/伊ケ崎忍)
仲間がいるからこそ感動や充実感が増幅する半面、仕事の世界のようなルールやコンプライアンスがない分、マウンティングが起こりやすい(撮影/伊ケ崎忍)
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「趣味は何ですか?」。会話の糸口に聞かれることは多いもの。だが、これといって趣味がないと、この質問はプレッシャーだ。SNSにはリア充趣味に興じる様子がてんこ盛り。趣味界は、なんだかんだと悩ましい。インスタ映えを重視して「趣味偽装」する人、趣味仲間から抜けられずに苦しむ人もいるらしい。AERA 7月31日号ではそんな「趣味圧」の正体を探る。

*  *  *

 70歳で俳句を始めた、80歳の藤田貞利さんは、毎月結社誌に提出しないといけない作句のプレッシャーに苛まれている。

「締め切り間際のプレッシャーは学生時代の試験前夜を思い出させます。来月は1日1句作ろうと決意するのですが、毎度同じ轍を踏んでしまう……。そんなにストレスなら、もうやめたらと妻にも言われます」

●趣味には100%注ぐ

 気楽に趣味に取り組む人が多いなか、なぜ苦しんでまでするのか?

「趣味だからですよ。仕事は80%。好きなものこそ100%打ち込むべき。苦しいからこそ達成感も大きい。簡単にできるものだったらすぐ飽きてしまうでしょう」

 趣味の苦しみや楽しさは、人間関係に負う部分も大きい。ハイアマチュアの合唱団で20年来活動する派遣社員の女性(51)は言う。

「人間関係の煩わしさは仕事以上。趣味の世界ではマウンティングが起こりやすい」

 新人が入ると、熱の入るベテラン団員がいる。女性も新人のころは“指導”を受けた。気の弱い新人ほど執拗に注意を受け、つぶされることもある。

「指導はアドバイスというより、(ベテラン団員の)自己顕示欲のために思えてならない」

 この女性はこうした人間関係に辟易する一方、アエラのアンケートにあった、SNSの「いいね!」を励みにベランダガーデニングを楽しんでいるという、趣味の事例には違和感を覚えた。

「自分は傷つかない場所にいて、何をきれいごと言っているんだろう?って」

 人間社会に煩わしさは付きもの。それも引き受けてこその趣味だ。楽器と人の声が一体となった瞬間、身も震えるような感動があるという。

「煩わしさを引き受けた先に、大きな感動も得られるのです」

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