やっと見つけたドナーを、パートナーのカオルさんは反対した。「彼の言っていることは正しいが、ドナーになってもらうのは違う気がする」と言うのだ。
しばらくして、カオルさんから、「あの人に頼みたい。あなたと彼の子を育てられたら、素敵だと思う」と提案があった。
カオルさんが選んだドナー候補は、LGBTを理解するアライ(ALLY)の男性。この人ならと、さと子さんも同意した。2人で切り出し、思いをそれぞれ手紙に託した。彼から連絡が来て、ファミレスで会った。
「2人の気持ちはすごく通じた。ぜひ、協力させてほしい」
男性は明るく言ってくれた。
「思いのほかうれしくて、ちょっと泣いた」(カオルさん)
現在、さと子さんは妊活中だ。考え方が少し変わった。
「子どもは、みんなで育てるもの。パートナー、家族や友人、子どもを待ち望んでくれる大切な人がたくさんいて、みんな広い意味で家族です」
身近な人に「子どもがかわいそう」とだけは言われたくない。
「それって、私たちに『何か足りない』ということでしょう。なら、『力を貸してください』とお願いしようと思っています」(さと子さん)
●「先陣を切るしかない」
サトシさん(29)とケンさん(27)は、昨年4月、当事者グループ「にじいろかぞく」のイベントを訪ね、子どもを望む当事者が多くいると知った。
現在、女性カップルと協力関係を築き、妊活中だ。生まれる子どもは、4人で育てたい。毎月会って親睦を深め、妊娠・出産・育児にかかる費用と産休・育休中の生活費の分担、住む自治体までを話し合った。
「僕らがやろうとしていることは、前例がないかもしれないし、大変なこともあると思う。理解を深めるためにも、先陣を切って進んでいくしかない」(サトシさん)
(文中カタカナ名は仮名)
(編集部・熊澤志保)
※AERA 2017年6月12日号