東京都世田谷区にある大宅壮一文庫。個人利用の場合、入館料300円で10冊まで閲覧できる。6月からは500円で15冊に改定予定(撮影/編集部・高橋有紀)
東京都世田谷区にある大宅壮一文庫。個人利用の場合、入館料300円で10冊まで閲覧できる。6月からは500円で15冊に改定予定(撮影/編集部・高橋有紀)
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貴重な雑誌も手に取って閲覧できる。29年前に発行されたアエラの創刊準備号(手前)と創刊号(奥)もあった(撮影/編集部・高橋有紀)
貴重な雑誌も手に取って閲覧できる。29年前に発行されたアエラの創刊準備号(手前)と創刊号(奥)もあった(撮影/編集部・高橋有紀)

 日本最初の雑誌の図書館として知られ、約78万冊の蔵書を誇る大宅文庫が存続の危機だ。支援を募るクラウドファンディングに著名人たちが応じている。

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 ツイッターには、こんなつぶやきがあふれた。

「ドキュメンタリー時代に大変お世話になりました。インターネットが発達していなかった当時、調べ物といえば国会図書館か大宅文庫だった。支援」(脚本家・野木亜紀子さん)

「言論人や出版人は参加・シェア必須じゃないかと。事実がネットで塗り替えられる今だからこそ大宅壮一文庫の重要性は高まってると思う」(ジャーナリスト・津田大介さん)

「大宅文庫は日本の文化遺産ですので後世に残す必要があります」(作家・猪瀬直樹さん)

 雑誌の図書館・大宅文庫がクラウドファンディングの「Readyfor」で始めた運営資金募集に応じようという呼びかけだ。支援の輪はあっという間に広がり、プロジェクト開始3日目には目標の500万円が集まった。同文庫事業課の鴨志田浩さんは言う。

「こんなにたくさんの方に応援してもらえるとは予想外。本当にうれしい。開始前は、達成できないのではと不安でした。身が引き締まる思いです」

●新聞やネットとは違う

 一般にはなじみのない大宅文庫なるものの存続に、なぜこれほど支援が集まるのか。

 正式名称は「公益財団法人大宅壮一文庫」。評論家の故・大宅壮一の蔵書をベースに1971年に設立され、明治以降の雑誌約1万タイトルを所蔵する。その資料価値の高さは誰もが認めるところだ。

 5月に大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞を受賞したジャーナリストの森健さんも、「リサーチには欠かせない」という一人。かつては月に2、3度足を運んでいた。

「先日も、老人の恋について調べたくて行きました。新聞には載りにくい世俗的な話題を扱った記事も、大宅文庫に行けば探し出すことができる。雑誌には、新聞のようなきれいごとではなく、ネットの情報とも違う、雑多で猥雑な社会のディテールが詰まっていると感じます」

 マスコミ関係者の利用が約9割だが、出版不況やネットの普及で来館者が減り、年に2千万円ほどの赤字が続く。一時的な支援で存続できるのか。

『未来の図書館、はじめませんか?』などの共著があり、図書館事情に詳しいアカデミック・リソース・ガイドの代表、岡本真さんは、図書館のクラウドファンディング成功事例として、演劇・映画の専門図書館「松竹大谷図書館」を挙げる。同館は、所蔵する脚本のデジタル化など、その時々の目的に合わせて過去に5回、クラウドファンディングで支援を募った。支援金総額は1500万円に上る。

「クラウドファンディングはお金の調達だけが目的ではありません。松竹大谷図書館は、持続的に応援してくれるファンを獲得した成功例。大宅文庫も、マスコミ以外の利用をどう開拓するかが鍵になる。大切なのは、支援者に継続的にアプローチして、中長期的に応援してもらう関係を作ることです」(岡本さん)

 大宅文庫の鴨志田さんも言う。

「人件費の削減など、出るもの(支出)を止める方向ばかり考えてきた。今回のクラウドファンディングをきっかけに、守りから攻めに切り替えられたら」

●雑誌のデジタル化

 所蔵雑誌は毎年約1万冊ずつ増え、出納を重ねるたびに傷みも進む。デジタル化も望まれるが、著作権の問題が複雑に絡み合う。雑誌のデジタル化は国立国会図書館だけが特例として許されているのが現状。このことも議論すべきときが来ている。

 大宅文庫は引き続き6月30日まで支援を募集し、集まった支援金は施設の補修やデータベースシステムの改修、職員の給与などに使われる予定だ。(編集部・高橋有紀)

AERA 2017年6月5日号