レコードをプレスするためのマスター(原型)を作り出す独ノイマン社製のレコードカッティングマシンVMS-70(撮影/堀内慶太郎)
レコードをプレスするためのマスター(原型)を作り出す独ノイマン社製のレコードカッティングマシンVMS-70(撮影/堀内慶太郎)
小鐵徹さん(74)による職人的な作業工程を経て、今もここからレコードの名品が世に送り出される(撮影/堀内慶太郎)
小鐵徹さん(74)による職人的な作業工程を経て、今もここからレコードの名品が世に送り出される(撮影/堀内慶太郎)
HMVレコードショップ吉祥寺店店長の竹野智博さん(41)(撮影/加藤夏子)
HMVレコードショップ吉祥寺店店長の竹野智博さん(41)(撮影/加藤夏子)
最近は日本人アーティストのアナログリリースがよく売れるそう(撮影/加藤夏子)
最近は日本人アーティストのアナログリリースがよく売れるそう(撮影/加藤夏子)
シンリズムさん(19)も、2015年のデビューから現在までアナログレコードでもリリースを重ねている(写真:フェイス ミュージックエンタテインメント提供)
シンリズムさん(19)も、2015年のデビューから現在までアナログレコードでもリリースを重ねている(写真:フェイス ミュージックエンタテインメント提供)

 音楽配信全盛の時代に逆行するように、アナログレコードが聴かれている。一過性のブームから、定着した文化へ。再び身近になったアナログ人気の秘密を探る。

 開店直後の店内は大いににぎわっていた。その手にはみなアナログレコードを抱えている。これが2017年の日本の光景であることに、目を疑う人もいるだろう。開店前に発行した入場整理券は予定した100枚では足りず、開店時間も15分繰り上げたという。

 17年3月30日、東京・吉祥寺駅北口のショッピングモール〈コピス吉祥寺〉2階に、HMVレコードショップがオープンした。すでに渋谷(14年)、新宿(16年)とアナログレコードに特化した大型店舗を新規開店させてきた同社としては都内3店目。店内在庫はレコードだけで約6万枚を誇っている。

●アナログならではの味

 現在のアナログレコードブームのきっかけとなったのは、08年4月にアメリカの独立レコード店の呼びかけにより英米で始まった<レコード・ストア・デイ>というイベントだった。12年からは日本でもスタートし、独自のレコード発売などで定着してきた。音楽ソフト全体の売り上げが落ち込んでいるのに対し、日本国内でも16年のレコード売上高は約6.3億円(サウンドスキャンジャパン調べ)と、市場は拡大している。デジタル配信では味わえない“物”としての魅力や、アナログレコードならではの耳障りのよい音色(針が拾う小さなノイズも含めて)がノスタルジックな感覚だけでなく、若い購買層にも新しいメディアとして発見されているのが、ここ数年の傾向だ。

 HMVレコードショップ吉祥寺店店長の竹野智博さんは「吉祥寺店は(先行して開店した渋谷、新宿店に比べて)いろんな意味で街や人に根ざしていきたいという思いがあります」と語った。明るさのある内装はもちろん、コレクター向けの高額レコードだけでなく、初心者にも買いやすい価格設定の品ぞろえも意識しているという。「(都心まで行かず)吉祥寺だったら顔を出してみたい」「レコードもプレーヤーも1万円程度で買えるのなら聴いてみようかな」といった感覚がごく普通に芽生えることが、一過性の「ブーム」を、自然に定着した「文化」に変えられると思っている。

「急カーブで上昇していくのではなくて、ゆったりと上がる人気であってほしいんです」(竹野さん)

 今40歳前後の竹野さんから50代手前の筆者の世代は、レコードが主流だった時代も、人気がどん底になった時代も知っている。インディーズレーベル「カクバリズム」代表を務める角張渉さんもそのひとりだ。今年15周年を迎えるカクバリズムでは、所属アーティストの作品をCDだけでなくレコードでもリリースしてきた。だが、すべてのカタログをレコードにしてきたわけではない。そこには角張さん自身のこだわりが表れている。

「ブームに乗じて出ている作品も(世間には)結構あると思うんですが、僕はその作品をレコードにする意味も問い続けたいんです。レコードで聴き続ける人は常にいてほしいですから」(角張さん)

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