将来は学校の教員になることが夢と語るシハムさん(13、左から3人目)も数年後に教育を受けられているか誰にもわからない(撮影/フォトグラファー・清水匡)
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将来は学校の教員になることが夢と語るシハムさん(13、左から3人目)も数年後に教育を受けられているか誰にもわからない(撮影/フォトグラファー・清水匡)
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 シリア危機から6年。4月、アサド政権による化学兵器使用を受けて米軍がミサイル攻撃、ロシアは「侵略行為」と米国を非難し、13日、シリア化学兵器問題の国連安保理決議案に拒否権を行使した。各国の思惑に翻弄され、子どもたちの将来が危ぶまれるシリア難民の教育事情を取材した。

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 2011年3月、東日本大震災とちょうど同じ時期、遠くシリアでは反政府デモを政府が弾圧したことが発端となり、今世紀最大の人道危機ともいわれるシリア危機が始まった。

 シリア国内外の難民・避難民は1100万人を数え、隣国ヨルダンでは65万6400人のシリア難民が避難生活を余儀なくされている。うち、23万6304人が公立学校に在学すべき年齢の子どもたちである。16年、難民キャンプを含むヨルダン国内の公立学校に登録されているシリア人生徒数は14万5458人、前年と比較すると12%増加した。17年の登録者数は約17万人と見込まれている。しかしいまだ、9万人を超える子どもたちが教育を受けられない状況にある。

 子どもたちが学校に通えない主な理由は家庭の経済的な状況に起因している。難民キャンプ外で生活する、いわゆるホストコミュニティーの難民たちは労働が認められておらず、低賃金、長時間、劣悪な環境での不法労働に従事し、子どもも家計を支えるために仕事をしている。また、出生証明書など学校登録に必要な書類を整えることもネックになっている。家から学校までの距離も低学年児童や女子生徒にとっては大きな壁となる。ヨルダンに避難してきて4年間、学校に行かず家族のために働いているワリッド君(17)は「もしシリア危機が起きていなかったら僕は普通に学校に行っていたでしょう。僕の大切な5年間は奪われてしまいました」と語った。

●隣国同士が同じ教室

 ヨルダン教育省は13年、午前中にヨルダン人、午後にシリア人が学べるよう公立学校にダブルシフト(2部)制を導入し、16年までに200校でこの制度を導入した。しかし、昨年まで授業の時間は45分から35分に短縮されていたため、ヨルダン人生徒の学力低下も問題視されている。また、シフトの切り替え時間や登下校時にシリア人生徒がいじめに遭うケースもあり、いじめが原因で学校を中退したシリア人生徒は16年だけで1600人にのぼった。

 NGOなどの各国援助機関も子どもたちの教育支援に着手している。日本のNPO「国境なき子どもたち」(KnK)は公立学校で補習授業を提供し生徒たちの学力向上に貢献している。この団体のユニークなところはヨルダン人とシリア人を同じ教室で勉強させている点だ。勉強やアクティビティーを通じてお互いの相互理解につなげている。補習授業を担当しているアヤ先生によると補習授業は通常のクラスよりも人気が高いという。「通常授業ではヨルダン人とシリア人との接点がありませんが、補習授業ではヨルダン人とシリア人を同じ班にしたり、同じ係の仕事をさせたりするなど、お互いが協力し合えるように工夫しています」とアヤ先生は続ける。KnKは生徒が抱える悩みなどにも対処している。

 難民キャンプでは、10%の家庭で18歳以下の子どもたちが働いて家計を支えるため、学校を中退している。19歳から24歳までの青年では、89%が教育を受けられていない状態にある。シリア危機が始まって5年が経過して支援が減り、職業訓練や非公式教育の機会が減少していることも要因の一つで、子どもたちの将来にも大きな影響が出始めている。タウジーヒと呼ばれる全国共通高校卒業試験(日本でいうセンター試験のような制度)を受験するシリア難民の生徒数はヨルダン人と比較して少なく、合格率もヨルダン人が44%なのに対してシリア難民は32%にとどまっている。

●夢描きにくい将来

 仮に高校まで通えたとしても、試験合格というハードル、そして経済的理由から大学進学への道のりはさらに厳しい。難民の多くはヨーロッパなどの第三国定住を希望している。将来自分がどこで生活できるのか予想がつかない状態で子どもたちは自分の夢を描きにくく、特に17、18歳の子どもたちの進路にも大きな影響を与えている。シリア危機が長引くほどその影響は深刻なものとなっていく。(フォトグラファー・清水匡)

AERA 2017年5月1-8日合併号