イギリスはまずい、は過去の話だ。極上の食材を育む自然、情熱的な生産者、賢明な選択のできる消費者。ブレグジットに揺れる中、違ったイギリスが見えてくる。2回目はいよいよ、南西部・コーンウォールへと向かう。
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いまイギリスの食文化を積極的にリードしているのが南西部だ。コーンウォール、デヴォンの二つの州は、英語圏で圧倒的なシェアを誇るガイドブック『ロンリープラネット』で、「foodie destination」、つまりグルメスポットとして紹介されている。新鮮な食材の宝庫で、国内のカリスマシェフたちもこぞってこのエリアに出店する。
はたしてイギリスは本当においしくなったのか。
疑問を解明するため、ロンドンのパディントン駅から寝台車ナイト・リビエラに乗り込んだ。向かうは終点ペンザンス。イギリスを日本に例えるとしたら、ちょうど鹿児島県にあたるのがコーンウォール州で、デヴォン州は宮崎県と考えていただきたい。ペンザンスはその最西端、鹿児島・枕崎の位置にある街だ。
寝台車を降り、朝日の中でコーンウォールの風を浴びながら、当地が舞台のひとつとなった浦沢直樹の漫画『MASTERキートン』を思い出す。目の前に広がるのはまるでMASTER キートン実写版のような世界だ。
主人公の平賀キートン太一はイギリス人の母と日本人の父を持つ考古学者だ。幼少期に母親の出身地コーンウォールで暮らしたという設定のため、荒野、遺跡、そしてメノウ色の海といった風景が漫画ではたびたび描かれる。
イギリスでもっとも温暖な気候に恵まれ、風光明媚なこのエリア。イギリス版モンサンミッシェルと言われるセント・マイケルズ・マウント、海岸沿いにある野外劇場ミナックシアターなどの観光名所も人気で、リゾート地として国内各地から保養に訪れる人も多い。
最高の食材を作りあげるのは、決して自然の恵みだけではない。そこにはいつも信念と情熱を持った生産者たちの存在がある。
イギリスといえば、紅茶の国。しかしほとんどの茶葉はインドやスリランカから輸入されている。イギリス国内で初めて茶葉の栽培に成功したのが「トレゴスナン」のガーデンディレクター、ジョナサン・ジョーンズさんだ。イギリスの紅茶文化の始まりといえば17世紀まで遡るが、初の国産紅茶が発売されたのは2005年とつい最近のことだ。
コーンウォール州トゥルーロという町にあるトレゴスナンは、約80平方キロメートルの敷地を持つプライベートガーデンだ。世界中のめずらしい樹木や植物が植えられている。200年前から観賞用のカメリア(ツバキ)を栽培しており、それが茶の木の栽培の成功につながった。ジョーンズさんは日本でもお茶の栽培を学んだ経験がある。失敗と試行錯誤を重ねた末、ようやく成功した。