15年以降、英ニュートン・エイクリフ、米マイアミの鉄道車両工場を稼働させ、生産の現地化も進めた。主要市場である日米欧に加え、インドやタイ、中国でも信号や車両などを受注。今後さらに海外事業を拡大し、18年度には海外売上比率を14年度の39%から83%に引き上げる計画だ。いずれも泥臭く信頼を築き上げた結果である。
両社の「企業文化」には際立った違いがある。日立の鉄道事業関係者は、自社の特徴をこう表現していた。
「車両納入後に問題が起きれば、日立が先頭に立って『技術』で解決する。技術力の向上によって、人々の信頼を得る」
実は英国現地法人の社長を選ぶ際、この日立独特の企業文化を理解する人物を基準にして、ドーマー氏を選んだという。
実際、日立は武骨に「技術」を信じる集団で、「野武士」軍団ともいわれてきた。その証拠に、日立のトップは代々理系人材から選ばれている。
一方の東芝はどうか。本来高い技術力を持つが、その技術力を拠り所とする企業文化は持ち合わせていない。どちらかといえば、ブランド力とコネクションにモノをいわせる「調整力」を武器とする企業文化なのだ。
かつて東芝は「お公家さん」と呼ばれた。90年ごろ、当時社長だった青井舒一氏にインタビューした際に指摘すると、青井社長は「それは昔の話だ。君、認識不足だよ」と言下に否定した。だがその特徴は今なお続いているように思えてならない。「お公家さん」ゆえに「調整力」が幅を利かせ、トップには文系人材が就くケースが多いのだ。伝統的に東芝トップは、経団連トップの座を狙うなど“財界病”患者も多い。
日立からは、経団連会長、議長は一人も出ていない。日立名誉会長の川村氏はこのほど、東京電力会長に就任予定だが、日立会長時代は経団連会長を固辞したことが知られている。結局のところ、東芝はこの期に及んでも、決断を先送りする「お公家さん」体質を抜け出せていない、ということだろう。(経済ジャーナリスト・片山修)
※AERA 2017年4月17日号