アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回はユニ・チャームの「ニッポンの課長」を紹介する。
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■ユニ・チャーム ジャパンプロケア営業統括本部 プロケア営業本部 首都圏第1支店東京エリアマネージャー 大西毅(40)
大西毅が、東京都内のある区立介護施設=写真=を訪ねたのは4年前。介護用の紙おむつの営業を担当していた。区が単価を決めて入札するため、個々の施設を訪ねても成約は期待できないが、それでも「よりよいケアを提案できたら」と考えたのだ。
大西は施設側に、ケアについて真剣に意見を述べた。スタッフはその姿に心動かされ、価格以外の条件も検討するよう、区に制度変更を働きかけた。1年目は実を結ばなかったが、大西もスタッフも諦めず、2年目に晴れて採用になった。
高齢化で拡大が見込める紙おむつ業界には20社近くのメーカーがひしめく。とにかく「安さ」を訴えて攻勢をかける会社もあるが、大西の営業方針は違う。漏れの少なさや通気性など利用者の快適性こそ、スタッフの負担減やトータルでのコスト削減につながると、現場の人々に寄り添って丁寧に説明する。
大学では農学部で生物学を学び、1998年に卒業後、外資系製薬会社で営業職(MR)に。2002年に渡豪し、働きながら英語を習得。04年に帰国してユニ・チャームに入社以来、紙おむつの営業一筋だ。MR時代に病院を回った感覚をフルに生かし、大口の成約を次々に獲得してきた。海外の現地法人に営業手法を教えたこともある。
「施設の中で、我々の理念に共感する人を少しずつ増やしていけばおのずと道は開ける」
独自の感覚を言葉で8人の部下たちに伝えることは難しいと思うが、後進が育てばと、若手が互いに教え合う勉強会を企画する。
「紙おむつは命を救う新薬ではないが、単なる消耗品でも決してない。『朝、いつも機嫌が悪かった方が笑顔になった』と聞くと、心地よく眠ることができたのだとうれしくなる。社会貢献度がとても高い仕事だと思う」
年が明けたら、北信越支店長に昇進する。
「組織づくりと同時に、今後も自らトップセールスを目指していきたい」
東京で地道に築いた人間関係は「宝物」として胸にしまい、新天地に飛び立つ。
(文中敬称略)
(ライター・安楽由紀子 写真・伊ケ崎忍)
※AERA 2016年12月26日号